チクチク☆ハンドメイド
昭和50年代の小学生時代、手芸遊びといえばビーズやリリヤンなどいろいろなものがありましたが、中でもフェルトを縫い合わせてマスコットを作ることが人気手芸の一つでした。特に5年生になって家庭科の教材で裁縫箱が配られると、自分の針と糸を持てたことがうれしくて、図書館でフェルトマスコット手芸の本を借りては、家にあるフェルトを使って女の子や動物のマスコットをチクチクと作っていたものです。
少女たちがフェルト手芸を楽しんでいたこの頃、昭和53年4月に国鉄が雑誌の付録に不織布の使用を承認したこともあり、フェルト風の厚手の不織布を自分でチクチクと縫って、マスコットや小物入れを手作りできるふろくが登場します。
マスクやウェットティッシュ、エアコンのフィルター、テーブルクロスなど、今や日常生活の様々な場面で見かけるようになった不織布。“不織”とは織ったり編んだりしていないという意味です。繊維を細かい針でからませたり、熱や接着剤を使って布状にしたもので、材料や作り方によって用途に合わせた機能を付け加えることも可能なため、幅広い製品に使用されています。少女漫画雑誌のふろくにおいても昭和55年ごろから、不織布を使用した“新素材”バッグが続々と登場するようになりました(22.規制への挑戦 (2)水にも強い新素材 参照)。
写真左:陸奥A子のマスコットドール(りぼん 昭和54年5月号)
写真中:太刀掛秀子のラブ・ポシェット(りぼん 昭和54年10月号)
写真右:リッキーの手芸セット(ちゃお 昭和55年5月号)
これらの不織布手芸セットは「不織布という布のような紙なのでジョーブよ」「特殊な布なのでジョーブ!」「不織布だから扱いは超簡単」といったコピーで、新しい特別な素材であることを強調していました。
「マスコットドール」は、イラストを切り抜いて糸で縫い合わせ、中にティッシュなどを詰めて綴じると、手のひらサイズのマスコットが簡単に作れます。
「ラブ・ポシェット」は、イラストを切り抜いて真ん中で二つ折りにし、両側を表から縫って、両はじにコンパスなどで穴をあけ、セットのひもを通せばペンシル型のキュートなポシェットのできあがり。
「リッキーの手芸セット」は、パーツごとに切り、セットのししゅう糸で点線上を縫い合わせると、ポケットつきのかわいい小物入れができちゃいます。
『りぼん』のふろくに初登場となった不織布の「マスコットドール」。実はつける前に、「このごろの子は作るなんて、まどろっこしいことは苦手だし、興味ない」「完成品でなければダメだ。作ったって、どうせ失敗してゴミ箱行きだ」という反対意見がかなりあったそう。少女たちに“モノづくり”の機会を与えることもふろくの役割の一つだと思っていたので、この時代でも作り手側からこのような意見が出てきたということがとても意外でした。しかし、そんな声を強引にはねのけて登場した“モノづくり”ふろくは大反響を呼ぶこととなり、翌6月号のふろくファンルームに掲載されたおたよりのほぼ全てが、この「マスコットドール」に関するものでした。ふろく担当のリョーコ記者いわく「大好評のレターが殺到したときは感涙にむせんだ」とのこと。
読者の少女たちは、ただ説明通りに作って終わりではなく、手芸が好きな子も苦手な子も自分なりに工夫してオリジナルのものを作って楽しんでいたようです。
「マスコットドール」は、余白のイラストを切り抜いてアップリケとして使ったり、マスコットの中にコーヒー豆を入れたり、中に詰めるティッシュに香水をふりかけたりして匂い袋として楽しむ少女たちも。
「ラブ・ポシェット」はセットのひもが長さ規制のため肩にかけるのには短かすぎて、ポシェットとしては使えないという事態が発生することに。それでも少女たちは、お部屋にぶらさげて状差しとして使ったり、自分で毛糸を編んで肩ひもを作ったり、ひもをつけずにハンカチケースとしてカバンに入れたりと様々な使いみちを考え出しています。
やはり、お裁縫が苦手な少女たちからは「大反対!」「作れなかった」というおたよりも届いたのですが、そんな子向けに、ボンドで貼りつけたり、白い紙を間にはさんで不織布をメモ帳の表紙にするなど、縫わなくても使えるものが作れるよというアイデアも寄せられました。
こういったおたよりの数々を目にして、少女たちの創造性とオリジナリティに驚かされるとともに、“モノづくり”ふろくがそれを育む機会の一つになっていることを改めて感じ取ることができたのです。
また、“モノづくり”とは別の話になりますが、「ラブ・ポシェット」について年長の読者からは、「ああいうもの(小さい子が持つようなもの)は私たちには持ち歩けない。りぼんを読んでいるのは小学生だけではないのだから、もう少し考えてふろくを作ってほしい」という手厳しい意見も届きました。これは小学生から社会人・主婦まで、さらには男性といった幅広い読者層だった当時の『りぼん』ならではのことで、ふろくを考えることの難しさをうかがい知ることができる一例ともいえるでしょう。
〈参考文献〉
『大研究!化学せんいのちから まんが社会見学シリーズ』森脇葵
漫画 講談社ビーシー 2014年
『日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史』社団法人
日本雑誌協会、社団法人 日本書籍出版協会 2007年