ふろくの花園 53.少女とふろくの歳時記 ○○の秋(後)
秋は外に出かけて自然と親しむだけでなく、過ごしやすい気候だからこそ、自分の趣味とじっくり向き合うのにももってこいの季節です。
後編では、どちらかといえばインドア方面の「○○の秋」ふろくについて紹介していきましょう。
夜が長くなる秋は、本を読む時間が多く取れるようになることから、読書に適した季節として「読書の秋」と言われることはもうすっかりおなじみで、「○○の秋」のトップにあげる人もたくさんいるのではないでしょうか。新聞各紙のデータベースで調べてみても、1918(大正7)年9月の読売新聞「讀書の秋 図書館通ひの人々」の記事ですでに使われています。
この「秋は読書の季節」というイメージが広まったのは、中国、唐の文学者・思想家である韓愈の詩の一部分
「灯火稍く親しむべく 簡編巻舒すべし〈とうかようやくしたしむべく かんべんけんじょすべし〉」
(時は秋、夜が長くなり灯火に親しむ機会が多くなった。書物をひもといて読むのに適した季節だ)で、
一般に「灯火親しむべし」というかたちで使われるフレーズが、1908(明治41)年に発表された夏目漱石の小説『三四郎』に登場したこともきっかけの一つだそうです。
毎年秋に実施される「読書週間」も、人々に「読書の秋」を普及させるのに大きな役割を果たしています。
もともと、関東大震災後の1924(大正13)年に日本図書館協会が始め1939(昭和14)年に途絶したものを起源としており、第二次世界大戦後の1947(昭和22)年11月17日に、「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」という決意のもと、出版社・取次会社・書店と公共図書館、新聞・放送のマスコミ機関が協力し、第1回「読書週間」が開催されました。翌年からは文化の日をはさんだ2週間(10月27日~11月9日)と定められ、全国に広まっていきました。今では読書感想文のコンクールなど、さまざまなイベントが行われています。
そんな「読書の秋」にちなんで、少女たちに楽しく本を読んでほしいという気持ちが込められた、読書グッズがたくさんふろくに登場しています。
まずは、本の収納に便利なマガジンラックやブックスタンド、ブックエンドです。
「一条ゆかりのカラフルマガジンラック(りぼん 1973年11月号)」は『りぼん』本誌がスッポリ入る大きさで、小物入れにも使えます。持ち手がついているので移動もラクチン。
「スパンク ファンシーマガジンラック(なかよし 1981年11月号)」は、両サイド2ヵ所に収納できて『なかよし』本誌もコミックスも入る大きくて丈夫な作り。お部屋でずっと使えるゴーカなラックです。
「アリスちゃん マガジンラック(ちゃお 1995年10月号)」は、『ちゃお』本誌が4冊も入る大きさで使いでタップリ。2つのスペースには段差がついていて本を取り出しやすくする心配りもされています。
「わーい! アニマルコミックス・ラック(りぼん 1986年11月号)」は両サイドについた大きなキャラクターがかわいいブックスタンド。コミックスだけでなくビデオカセットラックにも使えるところに時代を感じるふろくです。
「いつみちゃん どりいむブックエンド(なかよし 1984年11月号)」と「光希ちゃん
バンドブックエンド(りぼん 1992年11月号)」は、どちらもペンやメモなどの小物を入れられるスペースがついているブックエンド。机の上に置いて教科書を立てるなど、とっても便利に使えます。
「ミルモでポン! ラブラブぶっくすたんど(ちゃお 2005年10月号)」は、ちっちゃいけれどコミックスをしっかり並べてくれるブックエンドです。
これらもランチボックス(52.少女とふろくの歳時記 ○○の秋(前) 参照)同様、紙で市販品を見事に再現している一例で、少しでも長く使ってもらえるよう色・形や機能などに様々な工夫がされています。いつかは底が抜けたり破れたりして壊れてしまうのはわかっているけれど、次号のお知らせに大きなラックやボックスの写真が載っていると発売日が待ち遠しくなってしまう、楽しみにしていたふろくの一つでした。
お気に入りの本を大切に守ってくれる、ブックカバーも「読書の秋」には欠かせません。
「テディ・ベア ラブリーブックカバー(ひとみ 1978年11月号)」と「くるみと七人のこびとたち
メルヘンブックカバー(りぼん 1993年11月号)」は、どちらも丈夫なビニール製なので水や汚れも怖くありません。
「実果子ちゃん アキンド・ブックカバー(りぼん 1996年10月号)」や「りぼんオールスター
キラキラブックカバー(りぼん 1997年11月号)」、「みきなちゃん
ブックカバー(ちゃお 1997年11月号)」、「愛里ちゃん
クラフトブックカバー(りぼん 2002年10月号)」、「アゲハ100%
シンデレラブックカバー(りぼん 2005年10月号)」はどれも紙製だけど、人気漫画のキャラクターのイラストがとってもステキ。コミックスにピッタリのサイズです。
ふろくのブックカバーは、本誌が漫画雑誌ということでコミックスサイズが多いのですが、新学期などには教科書サイズの少し大きめのブックカバーもふろくになっています。1枚の紙を折って大きさを自由に調整できるものもありました。
この本どこまで読んだっけ? を解決してくれる、しおりもたくさんありますよ。
本にはさむしおりは、「りぼんしおり(りぼん 1955年11月号)」や「バレーしおり(なかよし 1957年11月号)」など、『なかよし』『りぼん』の創刊当初から登場している、少女向け紙製ふろくの超定番の一つですが、時代を経て、形や素材もバリエーションに富んできています。
「キッシーズ ブックマーク(りぼん 1977年11月号)」や「リノちゃん
おしゃれしおり(りぼん 1996年10月号)」は、細長い紙にキャラクターのイラストが描かれているオーソドックスなタイプ。
「チャチャ りんごの香りしおり(りぼん 1992年11月号)」は、オーソドックスなタイプにプラスして、りんごの絵をこすると香りがする、ちょっとだけ「収穫の秋」気分も味わえるしおりです。
「コンコンブックマーク(りぼん 1978年10月号)」や「チャーミング聖羅ブックマーク(りぼん 1987年10月号)」はクリップのように本にはさむタイプ。本の中にしおりが落ちることもなく、メモを止めるクリップとしても使えます。
「なるみちゃん ブックマーク(りぼん 1990年10月号)」や「ユキちゃん
とうめいしおり(りぼん 1998年10月号)」、「結婚しようよ
桐子の読書しおり(なかよし 2003年11月号)」はフィルム製で透けているのがオシャレです。紙にピッタリくっついて滑り落ちません。
「カードキャプターさくら
さくらちゃんブックマーカー(なかよし 1998年10月号)」は、キャラクターの形がかわいいピンク色の透明ビニール製しおり。エプロンの部分にページをはさめるクリップタイプです。
「りりかちゃん ブランコしおり(りぼん 1995年11月号)」はピンク色のプラスチック製しおり。本の間にはさむとスイングします。
「わんころべえ ゆらゆらしおり(なかよし 1996年11月号)」は、2つのキャラクターマスコットをリリアンでつなぎ、片方を本にはさみ、もう片方を本の外側にぶら下げるタイプのしおり。マスコットがゆらゆらゆれて、かわいいだけでなくオシャレ度もアップ!
本の世界にもっと入り込める、ブック型のグッズも登場しています。
「姫ちゃん ブック型レターセット(りぼん 1992年11月号)」は、びんせん+ふうとう+帯シールがセットになった、本物の絵本みたいなレターセット。表紙をあけると中はびんせんで、表紙にかぶせる帯がシールになっています。
「奈緒ちゃん ブック・レターセット(りぼん 1998年10月号)」は、ブック型ケース+びんせん+ふうとう+シール+P.S.カードがセットになった、「読書の秋」にピッタリのレターセット。ケースごと本棚にしまってもOKです。
「12歳。 魔法のスウィーツBOOK型ポーチ(ちゃお 2015年11月号)」は、サテン風の生地と背表紙部分の金色文字がオシャレなブック型ポーチ。コミックスも入るサイズで、ついついバッグから出して見せたくなっちゃうキュートなデザインになっています。
そして、「○○の秋」の最後を飾るのは「芸術の秋」です。
日展や二科展をはじめとする、絵画・彫刻・工芸などの芸術作品の展覧会が多く秋に開催されることなどから、秋が芸術を楽しむのに適しているのをいう言葉で、新聞各紙のデータベースを調べると、1928(昭和3)年9月の朝日新聞に「藝術の秋に」という記者のコラム記事があり、昭和の初めにはすでに使われていた表現だったことがわかります。もっともこの頃にはすでに、日展(当時は帝展)も二科展も開催されていて、人々が芸術作品に親しむようになってきていました。また、1951(昭和26)年8月の読売新聞「二科展の搬入始まる」の中には、「“芸術の秋ひらく” シーズンのトップを切って二科展の搬入が」という一文も見られます。美術館がいくつもあり、秋にいろいろな展覧会が開催される東京・上野のことを「上野の秋」「芸術の上野」とも称していました。
さて、少女たちが身近で楽しめる芸術といえば、“お絵かき”でしょう。「芸術の秋」には、いろいろなお絵かきグッズのふろくが少女たちに届けられました。
「るんるんスケッチブック(なかよし 1983年10月号)」は、ハンディーなバッグ形で持ち運びにも便利なスケッチブック。いつものふろくのノートよりも厚手で画用紙のような紙が使われていて、お店で売っているスケッチブックと同じくらいしっかりとした作りです。ワンポイントでプリントされたイラストもかわいくて、使うのがもったいなくなっちゃいます。
少女たちの遊びの代表的なもので、今では大人の間でも人気の「ぬり絵」もふろくになっています。憧れの先生方が描いた下絵を、自分が色をぬって仕上げることに胸がワクワクすると同時に、うまくぬれなかったらどうしようとちょっぴり緊張もしたふろくです。
「ペイントペイントポスター(りぼん 1976年11月号)」は、色をぬり終わるとポスターカレンダーとして使えます。
「ステンドグラスぬりえ(りぼん 1978年11月号)」は、グラシン紙のような紙に印刷されたイラストにサインペンで色をぬるアイデアぬり絵。できあがったものを窓にはるとまるでステンドグラスのような透け感がでて、とってもキレイ。
「なかよしオリジナルぬり絵カード(なかよし 1980年10月号)」は、3人の先生方がイラストを描いたB5サイズのぬり絵。お手本のカラーイラストもついていたのですが、ぬり絵そっちのけでそれをカードケースに入れ、下じきとして使って楽しんでいました。
「NAKAYOSIカラーリングポストカード(なかよし 1981年10月号)」は、色をぬった後はお友だちに送れる「ぬり絵ハガキ」です。色のセンスを発揮しちゃおう。
「くるみと七人のこびとたち
カラフルパレット&手づくりアートカード(なかよし 1994年10月号)」と「クレヨン王国
カラフルパレット&メルヘン絵はがき(なかよし 1997年10月号)」は、紙のパレットに絵の具が4色分ついていて、水をつけた筆で絵の具の部分をさわるとちゃんと色がでる画期的なふろく。セットのカードに色をぬって、オリジナルのカードが作れます。
新世紀を迎え、ついに色エンピツやクレヨンまでもがセットになった“ホンモノ”お絵かきふろくが登場しました。
「チョコミミ ドリーミー★おえかきセット(りぼん 2007年10月号)」は、プラスチック製でかわいくて丈夫なケースの中に、水彩色エンピツ6色+筆1本+クレヨン6色と、カラフルなお絵かき道具がたっぷり入っている豪華なセットです。水彩色エンピツでぬって水を含んだ筆でなぞると、なんと絵の具に変身! 一緒についている「りぼん★メルヘンぬりえ絵本」に色をつけたり、「りぼんちゃん×ハローキティ
おえかきノート」に好きな絵を描いたりして、お絵かき上手になっちゃいましょう。
少女漫画のイラストは細かいものが多いため、少女たちがキレイにぬり分けるのは結構大変だったのではないかと思います。特に1970年代の『りぼん』のものは、もはや“大人のぬり絵”レベルの緻密さでしょう。私の場合は一つしかないものを失敗して台無しにしてしまうのがイヤだったので、あまり積極的にぬり絵のふろくは使わなかったのですが、そんなことなど気にせず、思うままに色エンピツを動かして色をぬること自体を楽しんでいた少女たちのほうが、心から「芸術の秋」を満喫していたのかもしれません。
ハロウィンとクリスマスにはさまれて派手なイベントが少ない11月は、どことなく存在感が薄い月という印象があります。だからこそ、じっくりと落ち着いて秋の雰囲気を味わうことができるのです。
11月に早くも東京で初雪が降るなど、1年でいちばん快適に過ごせる秋は年々短くなってきているような感じがしますが、この貴重な時期にたくさんの「○○の秋」を楽しみたいものですね。
※行事・風習の由来については諸説あります
〈参考文献〉
『12か月の絵図鑑 季節を知る・遊ぶ・感じる』長谷川康男
監修 PHP研究所 2015年
『三省堂中国名言名句辞典』大島晃 編 三省堂 2011年
『年中行事大辞典』加藤友康、高埜利彦、長沢利明、山田邦明
編 吉川弘文館 2009年
「公益社団法人 読書推進運動協議会」webサイト
「公益社団法人 日展」webサイト
「公益社団法人 二科会」webサイト