ふろくの花園 34.少女とふろくの歳時記 卒業・思い出づくり
3月に入り、桜の開花はいつなのかが話題になり始めると、3学期ももうすぐ終わり。慣れ親しんだ教室で過ごす日々も残りわずかになりました。
卒業やクラス替えなどで離れ離れになってしまう、仲良しの友だちやお世話になった先生方、部活の仲間たちとの楽しかった思い出を、ふろくで残しておきましょう。
1枚の色紙にみんなからのメッセージが集まった寄せ書きは、部屋にずっと飾っておくこともできる思い出グッズの一つです。
1970年代の終わりごろから、お店で売っている色紙と同じような白い正方形の厚紙に、先生方のワンポイントイラストが描かれているものや、ハート型、花型、人気漫画のキャラクター型など、少女たちにピッタリなかわいく遊び心のある寄せ書き用色紙がいくつも登場しています。
「プルミエ・ミュゲ メモリアルサイン色紙(ひとみ 1981年3月号)」と「ゆかりのよせがき色紙(ひとみ 1985年3月号)」には、寄せ書きをしてもらう面の反対側に、春の別れや旅立ちをテーマにしたイラストポエムが描かれています。寄せ書きとポエムの相乗効果で、読み返すたびにロマンチック&センチメンタルな気分にひたることができます。
また、「しあわせってなんだっけ色紙+なかよしオールまんが家サイン色紙(なかよし 1987年3月号)」や「なかよしオールスター
サインいり色紙(なかよし 1998年3月号)」には、寄せ書きをしてもらう面の反対側に、漫画家の先生たちのサインとイラスト、一言メッセージがぎっしり書かれています。まるで雑誌生まれのスターである先生からも進級・進学をお祝いしてもらっているようで、漫画が大好きな少女たちにとっては、みんなからのメッセージと合わせて、何よりのプレゼントとなったことでしょう。
1年間の思い出をひとまとめにしてしまっておくためのバッグやケースもふろくになりました。
「ちびまる子ちゃん おもいでバッグ(りぼん 1991年3月号)」は、本誌の約2倍でB4サイズも入る紙袋。思い出の品の数々をたっぷりいれることができます。
「カレンちゃん おもいでボックス(ちゃお 1995年3月号)」は、六角柱の形がユニークな筒形ケース。伸び縮みするので、いろいろなサイズの大切な絵や賞状などを折らずにとっておくことができるスグレモノです。
「ありさちゃん タイムカプセルデータ・メモ(りぼん 2000年3月号)」には未来の自分へのメッセージも閉じ込めておきましょう。フタをしめた日付と「〇年〇月〇日まで開けちゃだめ!」の封印日付を書くスペースもあります。何年先になるのかな? 開ける日が楽しみになりますね。
この1年にあった出来事を新聞形式でまとめられるのが「みい子ちゃん おもいで新聞(ちゃお 1995年3月号)」です。「おもいでなんでもベスト5」「おもいで4コマをかこう!」「はやりセリフベスト3」「私のまわり流行通信」など、1人でじっくりいろいろな出来事を思い返しながら書いてもよし、友だちと一緒に思い出話に花を咲かせながら書いてもよしの、楽しいコーナーが目白押し。けれども、中には好きな人の似顔絵や身長・髪型・体型・タレントに例えると・好きなところなどを記事にしちゃう、「スクープ! 私の好きなひと!!」という結構きわどいコーナーもあり、ここはちょっと友だちにはナイショにしておきたいところ。本誌では、この「おもいで新聞」のコンテストも開催されましたが、応募対象のコーナーに「私の好きなひと!!」は入っていなかったので、少女たちも安心して好きな人の思い出を心の中にそっとしまっておけました。
友だちや先生方からのメッセージを残しておくための思い出グッズといえば、何といっても「サイン帳」でしょう。
この時期ならではの、思い出をとっておくための特別なノートである「サイン帳」が、いつごろから使われるようになったかは定かではありません。ただ、現在70歳代の母親が小中学生時代のサイン帳を今でも大事にとっておいていたり、「羽根ペンつきサイン帳(ひとみ 1959年3月号)」や「ゆめのサイン帳(なかよし 1959年3月号)」といったふろくに、「わすれられないたのしさを、いつまでもそっと、だいじにしまっておいてくれるゆめのサイン帳!」「三月… 進級も卒業も、もうすぐですね。美しい羽根ペンとルネ先生のサイン帳で、先生やお友だちのサインを集めてください」などの説明書きがあるのをみると、『なかよし』『りぼん』が創刊された昭和30年ごろには、「サイン帳」にお別れのメッセージを書いてもらう習慣はすでにあったようです。
その後「サイン帳」が、「おひなさま」(33.少女とふろくの歳時記 ひな祭り 参照)をもしのぐ3月号の定番ふろくとして再び登場するのは、サンリオなどのキャラクターグッズ、特に文房具類が低学年の少女たちにも広まってきた1970年代の終わりごろでした。
厚紙の表紙をスナップやリボンで止めるものが多く、普通のノートよりもしっかりとした作りだった当時の「サイン帳」は、「キャンディ・キャンディ 思い出ノート(なかよし 1978年3月号)」「陸奥A子のサイン・ノート(りぼん 1979年3月号)」などのノートだけのものや、「フォスティーヌ 思い出アルバム(なかよし 1979年3月号)」「アルバムつきサインノート(りぼん 1980年3月号)」「ロマンチックメモリー(ちゃお 1981年3月号)」などのサインと一緒に写真も保管できるアルバムがついたもの、「きららの思い出カード集(なかよし 1981年3月号)」「アルバムつきサイン帳セット(りぼん 1981年3月号)」などの1枚ずつ配れるタイプのものや、「香澄ちゃんおもいでアルバム(りぼん 1987年3月号)」などの思い出の品を一緒にしまっておけるポケットがついたものなど、様々なタイプがありましたが、ノート部分はワンポイントのイラストがある程度で、自由に描いてもらえるスペースの多いフリータイプがほとんどです。
1990年代になると、「愛良ちゃん 思い出セット(りぼん 1992年3月号)」「アリスちゃん
サイン帳セット(ちゃお 1994年3月号)」「虹子ちゃん
おもいでサイン帳セット(ちゃお 1995年3月号)」「奏ちゃん
思い出セット(りぼん 1996年3月号)」などの、厚紙で作られたバインダーにサイン用紙、アルバム、ポケットなどをひとまとめにとじておく「サイン帳セット」「思い出セット」が主流になりました。
サイン帳部分は1人に1枚ずつ配れるルーズリーフタイプ。1冊を何人もに回すノートタイプと違い、効率的に回収ができるので、毎日会えるわけではない塾や習いごとの仲間にも気軽にサインを頼めます。名前・住所・電話番号・誕生日・血液型などの基本的な項目のほか、趣味や将来の夢などを記入する欄がいくつか決まっていて、残りのスペースにメッセージなどを自由に書いてもらう形式です。ふろくによっては「おともだちのきろく」とも名付けられています。似顔絵だけでなく写真シールを貼る枠が現れてくるのも、プリクラが少女たちの間で爆発的な人気を呼びはじめるこの時代ならではでしょう。
2000年代に入り新世紀を迎えると、“ホンモノ”ふろくとなるミニ6穴タイプのサイン帳セットが登場します。とじ具は金属やプラスチックと丈夫になり、ビニールカバーがついたものもあるバインダーは、市販のモノと遜色がないくらいの本格的なもので、思い出をずっととっておくことができそうです。
友だちに書いてもらうサイン帳部分は、1990年代のものよりもさらにカラフルで、記入する項目もさらに細かく、数も多くなりました。名前・住所・電話番号・メールアドレス・誕生日・血液型などの基本的な項目はもちろんのこと、プリクラコーナーや趣味・特技・性格・チャームポイント・将来の夢・好きなもの・宝物・マイブームなどの様々な質問について、アンケートや穴埋め式のテストにたてつづけに答えていくような勢いで記入欄が作られています。さらには心理テストや恋バナコーナーまでもあり、フリースペースはメッセージが一言書ける程度に減ってしまいました。
かつてのように自由なレイアウトでメッセージを書いてもらうタイプに比べて、書き手側のオリジナリティは出にくいかもしれませんが、書くことが苦手で何を書いていいのかなかなか思い浮かばない少女たちにとっては、質問に答えるだけのこれらの用紙には気楽に書けるでしょうし、全員同じ質問だからこそ、友だちによって答えが違うのを見て、それぞれの性格・考え方の違いを感じ取ることができるのかもしれません。みんな一緒に、一人だけ浮かないようにという配慮もされた、ある一定の枠の中で個性を出すというのが、なんとも今の子ども社会をよく表しているような気がします。
そして2009年ごろから「サイン帳」は、「ちゃおキャラ きらきら☆キュート!クロdeクローバープロフ帳(ちゃお 2009年3月号)」「ベストフレンド★プロフ帳(りぼん 2011年3月号)」「ハッピーフレンズ☆プロフ帳&プロフシート(ちゃお 2015年3月号)」といった、「プロフ帳」という新しい名前で呼ばれるようになります。「プロフ」は「プロフィール」の略で、ネット上の自己紹介サイトで決まった項目に入力する「プロフサイト」がメディアで話題になり、少女たちの間に広まったことも影響しているのでしょう。
この「プロフ帳」、現在では卒業シーズンの3月だけでなく年間を通して使われているようで、特に4月の新学期にクラス替えなどがあると、挨拶代わりに用紙を渡して友だちづくりのきっかけにする少女たちも多いとのこと。
かつての「サイン帳」は、お別れする友だちとの思い出づくりだけではなく、新しい友だちとの出会いにもつながるコミュニケーションツールの一つへと変化しているのです。
この回を書くにあたり、所有しているふろくのサイン帳を見返してみたところ、小学生時代の友だちや先生に書いてもらったものが何冊か見つかりました。もう30年以上も経つのに当時の記憶が鮮やかに甦って、ふろくの懐かしさだけでなく少女時代の懐かしさも合わせて味わえたような気がします。
友だち、先生、仲間たち。みんなの気持ちと思い出がつまった1冊は、いくつになっても大切な宝物になりますね。
〈参考文献〉
『モノ流行 プロフィル帳 卒業前に交換』読売新聞 2009年3月2日朝刊
« ふろくの花園 33.少女とふろくの歳時記 ひな祭り | トップページ | ふろくの花園 35.少女とふろくの歳時記 お花見 »
「ふろくの花園」カテゴリの記事
- ふろくの花園 61.人気キャラとふろくで応援! オリンピック(2021.08.08)
- ふろくの花園 60.定番ボードゲームは日本生まれ オセロゲーム(2021.01.18)
- ふろくの花園 59.レアものゲットでコンプリート!? キャラクターカード(2020.01.03)
- ふろくの花園 58.“プリクラ” 少女たちの放課後を変えた!?(2019.01.31)
- ふろくの花園 57.祝・平昌オリンピック金銀メダル! スケートふろく(2018.02.17)