ふろくの花園 33.少女とふろくの歳時記 ひな祭り
3月3日はひな祭り。「おひなさま」を飾り、桃の花やひしもち、ひなあられなどを供えて女の子の健やかな成長と幸せを願います。
平安時代、貴族や豊かな家の女の子は紙で作った人形やちいさなおもちゃなどを「ひいな」とよび、ままごとのような「ひいな遊び」をしていました。
同じころ、中国から3月3日に水辺で体を清めて病気を追い払うならわしが伝わって、海や川で身を清め、紙や土で作った人形を自分の身代わりとして流したりすることで、身の汚れを清める行事が貴族の間で行われるようになります。昔は病気で命を落とす子どもが多かったので、子どもが病気にならないよう枕元に人形を置いたり、病気になったときには身体をさすったり、息を吹きかけたりして人形にうつし、海や川に流していたそうです。
この3月3日の人形を水に流す行事と「ひいな遊び」が結びつき、やがて人形が立派になるにつれて水に流さず毎年家に飾るようになったのが、今のひな祭りの始まりといわれています。
その後、江戸時代には武士や商人の家でもたくさんの人形をひな壇に飾るようになり、明治時代以降は一般の家にも広まりました。
まさに少女たちのためのお祭りといえる「ひな祭り」をとりあげたふろくは、1955年の『なかよし』『りぼん』創刊当初から3月号の定番として登場しています。
お殿さまとお姫さまの内裏びな、三人官女、五人ばやしなど、着物を着た宮中の人たちの人形が15体飾られる、美しく豪華な「おひなさま」には、少女たちの夢と憧れが詰まっています。その雰囲気を少しでも味わって楽しんでもらえるよう、様々なアイデアを盛り込んだ「ひな祭り」ふろくを少女たちに届けました。
「とてもうつくしい! かざりおひなさま(なかよし 1957年3月号)」「おひなさまえはがき(りぼん 1958年3月号)」「ひなまつり写真集(なかよし 1959年3月号)」といった、おひなさまの写真やカードといった平面的なものから始まり、1960年代に入ると「ひな祭りびょうぶセット(ひとみ 1960年3月号)」「かわいいおひなさま(りぼん 1961年3月号)」などの机の上にも飾れる立体的なひな飾りも登場します。
「たのしいおひなさまセット(なかよし 1962年3月号)」は男の子と女の子おそろいのおひなさまセット。衣装部分にハニカム構造を用いていて、開くとはかまのフワッとした感じが再現されるデラックスな紙製人形です。
「ケース入りミニチュアおひなさま(りぼん 1969年3月号)」は内裏びなと三人官女の飾りびながビニールのケースに入っていてそのまま飾ることができます。小さなケースでも「おひなさま」の魅力が伝わってくるようなセットです。
また、「たのしくつくりましょう おひなさま人形(なかよし 1963年3月号)」「紙びなさま おひなさま千代紙(りぼん 1963年3月号)」といった、自分だけのおひなさまが作れる千代紙セットや、「ひなまつりベビーダンス(なかよし 1964年3月号)」「おひなさまかさね小箱(りぼん 1964年3月号)」などの組み立て式で実用的なものも。
さらには、内裏びなにグループサウンズの人気者、アイちゃんとジュリーが並んでいる「びょうぶつきかざりびな(なかよし 1969年3月号)」で、時代の空気も感じさせました。
1970年代に入ると、ファンシーグッズやサンリオなどのキャラクターグッズが少女たちに広まり、雑誌生まれのスターたち(マスコットキャラクター・漫画家・漫画作品)が輝き始めます。ステーショナリーなどの実用品がふろくの中心になったこともあり、「ひな祭り」のふろくはしばらく姿を消しました。
しかし1980年代が終わるころ、3月号のふろくに「ひな祭り」が戻ってきたのです。
雑誌生まれのスターが最高潮ともいえる輝きを見せているこのころ、『ときめきトゥナイト』の「ときめきランドのおひなさま(りぼん 1988年3月号)」や、『ちびまるこちゃん』の「まるちゃんおひなさま(りぼん 1989・1990年3月号)」といった、人気漫画のキャラクターたちが「おひなさま」に扮しました。
「おひなさま」のひな壇にはたくさんの登場人物がいます。ひな壇に漫画のキャラクターを載せることで、少女たちに「ひな祭り」という年中行事を周知させるのはもちろんのこと、漫画作品の世界観をアピールできる絶好のふろくでもあったのです。
風などで人形がゆらゆらとゆれる「ミモリちゃん ゆらゆらおひなさま(りぼん 1997年3月号)」や、ひな壇の部分が小物入れになっている「ほたるの虹色おひなさま(ひとみ 1989年3月号)」、指人形にして遊べる「シロちゃん 指人形おひなさま(りぼん 1991年3月号)」、付属のシールを貼って人形を変装させられる「変装おひなさま(りぼん 2001年3月号)」など、飾ることがメインだった1960年代までのふろくに、遊び心と実用性をプラスしたものも。
そして、サイコロをふって占いができる「チャチャのおひなさま占い(りぼん 1994年3月号)」や、ひな壇ですごろくをしてお内裏さまを目指す「わんころべえ おひなさますごろくゲーム(なかよし 1997年3月号)」、コマをつかって遊ぶバランスゲーム「ドキドキおひなさまゲーム(りぼん 2000年3月号)」、勉強運・金運・ラブ運がわなげで占える「ラブわん! ひなかざり★わなげ占い(りぼん 2004年3月号)」など、ひな段の高低差を利用した立体感のあるゲームや占いができるもので、「おひなさま」をただ机の上に置いて眺めるだけでなく、少女たちを飽きさせないような工夫も凝らされています。
「ひな祭り」には「おひなさま」だけではなく、この時期ならではのお菓子、ひなあられがあります。
関東ではもち米を炒って砂糖をまぶしたあられ、関西や中部では塩または醤油味の丸いあられと地域によって違いがあり、四季(春・夏・秋・冬)を表す4つの色で染められているそうです。ずっと関東で育ってきた自分は、今年初めて関西のひなあられのことを知りました。甘さが苦手でひなあられはこれまであまり食べなかったのですが、関西のあられはいろいろな味があり後を引くおいしさで、世界が広がったような気がします。
このひなあられを詰めるための「あずきちゃん
ひなあられパック(なかよし 1996年3月号)」「ひなまつりだよ!!
たまごっちパック(なかよし 1998年3月号)」「東京ミュウミュウ
いちごのスイートあられパック(なかよし 2002年3月号)」も登場。「おひなさま」と一緒にお部屋に飾ったり、お友だちへのプレゼントに使ったりと、カラフルなひなあられをさらにかわいくして彩りを添えました。
女の子のお祭りである「ひな祭り」には、仲良しのお友だちとパーティをするのも楽しみの一つです。
お料理や小物づくりにゲームなどひな祭りパーティーのアイデアがぎっしりの「ひなまつり手づくりブック(ちゃお 1997年3月号)」や、テーブルセッティングに使える「レピッシュ!
ひな祭りはしぶくろ(なかよし 1989年3月号)」と「ひなまつりペーパーナプキン(ちゃお 1999年3月号)」、チケットを持ってるみんなが集まると「おひなさま」ができあがる「あずきちゃん
ひなまつりカム・カム・パーティーチケット(なかよし 1994年3月号)」、お友だちの名前を書いて机の上に置くとパーティーのかわいいマスコットになる「園子パーティー人形(なかよし 1990年3月号)」などのふろくで準備もバッチリ。パーティも盛り上がりそうですね。
新世紀を迎えて15年が経った現在、『なかより』『りぼん』『ちゃお』のふろくは、“ホンモノ”ふろくのファッショングッズやステーショナリーが主となり、連載漫画のキャラクターグッズ色が薄くなっています。「ひな祭り」のふろくも「カレンダーつきフリフリひなかざり(りぼん 2009年3月号)」を最後に、2010年ごろからまた姿を消しました。
「ひな祭り」は男性中心の社会だった昔に、女の子の成長と健康をまもる心がならわしとなって現在まで伝わった、世界でも珍しい行事だそうです。
少女漫画雑誌のふろくから「ひな祭り」の空気を感じ取ることは難しくなってしまいましたが、少女たちのためのお祭りとしていつまでも大切にしていきたいですね。
※行事・風習の由来については諸説あります
〈参考文献〉
『12か月の絵図鑑 季節を知る・遊ぶ・感じる』長谷川康男
監修 PHP研究所 2015年
『親子でたのしむ日本の行事』平凡社 2014年
『かこさとし こどもの行事 しぜんと生活 3月のまき』かこさとし
文・絵 小峰書店 2012年
『はじめて知る みんなの行事とくらし』学習研究社 2008年
『親子で学ぶ 季節行事とマナーの基本』クレア
編著 毎日コミュニケーションズ 2007年
『まるごとわかる 365日ものしり百科 3月』谷川健一
監修 日本図書センター 2005年
« 人気者とピンポン☆ | トップページ | ふろくの花園 34.少女とふろくの歳時記 卒業・思い出づくり »
「ふろくの花園」カテゴリの記事
- ふろくの花園 61.人気キャラとふろくで応援! オリンピック(2021.08.08)
- ふろくの花園 60.定番ボードゲームは日本生まれ オセロゲーム(2021.01.18)
- ふろくの花園 59.レアものゲットでコンプリート!? キャラクターカード(2020.01.03)
- ふろくの花園 58.“プリクラ” 少女たちの放課後を変えた!?(2019.01.31)
- ふろくの花園 57.祝・平昌オリンピック金銀メダル! スケートふろく(2018.02.17)