ふろくの花園 31.少女とふろくの歳時記 バレンタインデー(前)
毎年2月14日は、朝から学校中がどことなくそわそわしていました。
女子はお目当ての男子にチョコレートを渡せるか、男子は女子からチョコレートをもらえるか。
日本では「女性が好きな男性にチョコレートを贈り、愛の告白をする日」とされているバレンタインデーは、子どもたちにとっても一大イベントとなっています。
そもそも2月14日のバレンタインデーとは、この日に亡くなったバレンタイン神父をしのぶキリスト教の祝日です。
古代ローマでは、家族を思うことで戦う力が弱くなるのを防ぐため、皇帝が兵士の結婚を禁じていましたが、バレンタイン神父は兵士たちをひそかに結婚させていました。これが皇帝の知るところとなり、2月14日に処刑されてしまいます。この行いからバレンタイン神父は愛の守護者とみなされ、ローマ神話のジュノーという女神の祭りとも結びつき、のちに欧米で「愛の記念日」として恋人や夫婦がプレゼントを交換するようになる恋人たちの日になったといわれています。
バレンタインデーの習慣が日本に取り入れられたのは、1936年に神戸のモロゾフが東京の英字新聞にバレンタイン用チョコレートの広告を載せたことが始まりといわれますが、当時の日本では欧米のバレンタインの習慣を知る人もなく、在日欧米人も当時は何の関心も示さなかったそうです。
戦後の1958年、欧米でバレンタインという恋人同士が花やプレゼントを贈り合う習慣があることを知ったメリーチョコレートが、新宿・伊勢丹でバレンタインチョコレートの販売を始めます。
バレンタインデーのことを「お菓子屋の陰謀」と冗談交じりで呼んだりすることもありますが、実際、売り上げが落ちる2月の販売戦略として取り入れようという思惑もあったようです。
しかし、宣伝効果もなくわずかのチョコレートが売れただけで終わりました。翌年、これからの日本人女性は自立した強いひとになってほしいという願いも込め、「年に一度、女性がチョコを贈って愛を告白する日」という新たな解釈を打ち出して、再度バレンタイン・フェアを開催します。ハート型のチョコに名前を彫るサービスも行ったことで女性客が強い関心を示し、数百枚を売り上げました。
1960年代に入ると雑誌や新聞にバレンタインデーの記事や広告が増え、「女性から“好き”なんて言えない……」と告白をためらっていた人たちの背中を押すようになります。「女性が好きな男性にチョコレートを贈り、愛の告白をする」という日本のバレンタインデーの形式はこのころ固まりますが、チョコレートの贈答という企画がブームを引き起こすまでにはまだ至っていませんでした。
そして1970年代、これまでの宣伝が功を奏し、日本式バレンタインデーが定着してチョコレート商戦も過熱していきます。
低年齢層にもこの習慣が広まっていき、『なかよし』『りぼん』『ちゃお』『ひとみ』にもこのころから、「バレンタインペアペアケース(りぼん 1972年2月号)」「亜土ちゃんのバレンタインカード(りぼん 1973年2月号)」「バレンタインカード(ちゃお 1978年2月号)」「プチ・バレンタインカード(なかよし 1979年2月号)」「ラブリー・バレンタインカード(ひとみ 1979年2月号)」などの、バレンタインにちなんだふろくが登場します。
「2月14日は愛のバレンタイン・デー 女の子から男の子にプロポーズできる日よ!! あなたもステキな男の子にアタックしてね」と、バレンタインデーについての説明をつけて、少女たちに“恋愛”が絡む新しいイベントを紹介しました。
その後1980年代からは、バレンタイン用グッズが毎年2月号の定番ふろくになり、「好きな男の子にチョコを渡してアタックしちゃおう!」という、少女たちの一大イベントを全面的にバックアップしていきます。
紙製品がメインであるこの時代のバレンタインふろくの多くは、相手に渡すプレゼントに彩りを添えるギフト用品でした。
まずは、プレゼントにつけるバレンタイン用カードとレター。
雑誌生まれのスターが描くイラストの数々は、正直、男子にあげてしまうのはもったいないくらいの美しさです。
折り方やメッセージの表示方法に工夫をこらしているものもあり、少女たちの遊びごころもくすぐっています。
プレゼントを入れる袋やミニパッケージは紙だけでなくビニール製もあり、安心してチョコレートを入れられます。袋を止めるタグやビニタイもついているのがとっても親切。
かわいいシールの数々はプレゼントのワンポイントに使えます。
「リトル行進曲 マイハートアタック(なかよし 1991年2月号)」は、大きさ10cmほどのハート形ビニール風船。チョコレートと一緒に渡すと、まさに文字通りの“ハートアタック”しちゃうぐらいのインパクトを与えそうですね。
ギフトボックスは、紙ならではの特性を活かした様々な形や大きさのモノがそろっています。プレゼント用だけでなく、机の上に置いて小物入れとしても使えそうなかわいさです。
さらに1990年代には、「ぎょぴちゃん てづくりチョコセット(なかよし 1992年2月号)」「ケロちゃんのプリティーチョコ型(なかよし 1997年2月号)」といった、人気漫画のキャラクターのチョコレートがつくれるプラスチック製のチョコレート型も登場します。規制の範囲内で工夫されたこのアイデアグッズは、雑誌生まれのスターが輝いていた時期ならではのふろくでしょう。
これらのバレンタインふろくで本命チョコも義理チョコもおまかせ! プレゼントの準備はこれで万端です。
でももう一つ、バレンタイン当日に向けての大事なことが残っています。
まだまだ準備は終わりません。
※行事・風習の由来については諸説あります
〈参考文献〉
『バレンタインデーの秘密 愛の宗教文化史』浜本隆志
著 平凡社 2015年
『12か月の絵図鑑 季節を知る・遊ぶ・感じる』長谷川康男
監修 PHP研究所 2015年
『親子でたのしむ日本の行事』平凡社 2014年
『かこさとし こどもの行事 しぜんと生活 2月のまき』かこさとし
文・絵 小峰書店 2012年
『親子で学ぶ 季節行事とマナーの基本』クレア
編著 毎日コミュニケーションズ 2007年
『まるごとわかる 365日ものしり百科 2月』谷川健一
監修 日本図書センター 2005年
『東京の記憶 バレンタインデー』読売新聞 2007年2月12日朝刊
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