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2016年1月29日 (金)

ふろくの花園 28.少女とふろくの歳時記 お正月(前)

 日本には、古くから受け継がれてきた伝統的なならわしや、四季を肌で感じる季節の習慣、西洋から伝わった風習など、日々の暮らしにとけこんでいる様々な年中行事があります。
 そして、少女たちの好きなもの・欲しいものを詰め込んた『なかよし』『りぼん』『ちゃお』『ひとみ』のふろくにも、それらの年中行事をとりあげたものが登場してきました。
 いつも身の回りに置いて使ってほしいという思いを込めて届けられるふろくは、少女たちの日常生活に密着しているため、その季節ならではの事柄が現れるのは自然なことなのでしょう。
 ここからは、少女たちが出会う様々な季節の行事や習慣をとりあげたふろくを、「1年のうち、そのおりおりの自然・人事百般のことを記した書(『広辞苑 第六版』より)」である歳時記になぞらえて紹介していきます。
 時代の空気だけではなく、それぞれの季節の空気も感じ取っていただければ幸いです。

 それでは「ふろく歳時記」の花園へ、みなさまをご案内いたします。

 新しい年が始まった1月初旬、お正月となるこの時期は一年のうちでいちばん日本らしい、和の雰囲気を味わうことができるのではないでしょうか。
 お正月とは、1年の豊かな実りと家族の健康を人々に授けてくれる農耕の神様、歳神〈としがみ〉様を家に迎えてもてなし、前年の無事への感謝と新年の無事を願いお祈りする行事です。
 お正月の“正”には「あらたまる」「はじまる」の意味もあり、お正月とは「年のはじまりの月」をあらわしています。

 発売は前年の12月ですが、お正月特大号となる1月号のふろくは、和を感じさせるデザインが中心となり、お正月ならではの小物が数多くみられました。

 ますは、『なかよし』『りぼん』が創刊されてまだ間もない1950年代後半~1960年代、まだ完全な漫画雑誌にはなっていない、少女雑誌時代のお正月ふろくを見てみましょう。

 お正月には少女たちも当たり前のように着物を着ていたこの頃、お正月のおでかけに持っていける「晴れ着に似合う豪華さ」を強調したハンドバッグがお正月恒例のふろくになりました。

 「ダイヤモンドバッグ(なかよし 1961年1月号)」は、お正月のはれぎにぴったりの、ぴかぴか光った大型のすてきなバッグ。
 「お正月ハンドバッグ(ひとみ 1961年1月号)」は、美しい色のステキなデザインで、お正月のおでかけをいっそうたのしくするデラックスなハンドバッグ。
 「およばれ・バッグ(りぼん 1963年1月号)」は、よそゆきの洋服にもお正月の着物にもよくあう、うす桃色のハンドバッグ。
 「お正月晴れ着のバッグ(なかよし 1967年1月号)」は、デパートで売っているバッグより、ぐっとデラックスなハンドバッグ。
 「お正月おでかけバッグ(りぼん 1968年1月号)」は、ビニールにフェルトを植毛した新製品。少女雑誌ではじめての、あっとおどろくデラックスふろくです。

 居間に飾られている羽子板をそのまま小さくしたような「かざり羽子板(りぼん 1969年1月号)」は、机の上に置くと、ぐっとお正月らしく華やかになります。羽子板をかたどったふろくは、他にもしおりやハガキ、ブローチなど多数登場しています。

 お正月の遊びや手品、かくしげいなどを紹介している「お正月おたのしみブック(なかよし 1958年1月号)」や、お正月の遊びのほか、マナーや年賀状の書き方も載っている「新年ポケット辞典(ひとみ 1961年1月号)」といった、お正月を楽しく過ごすための情報が満載の別冊もついています。

 また、少女たちの学習をサポートするふろくもありました。
 まずは冬休みの宿題の定番である習字の「書き初め」。かつては仕事始めの1月2日に、その年の目標や決心を墨で紙に書き、歳神様にささげるならわしがありました。これにしたがい、子どもたちも1月2日に大きな紙に字を書いて、書が上手になるよう願うようになったといわれています。
 『りぼん』では、1962・1963・1965・1966年の1月号に「おかきぞめ手本」をふろくにつけています。これをお手本に宿題を書いた少女たちはどれくらいいたのでしょうか。
 一方、『なかよし』には、1963年から1967年の1月号に「百人一首」が登場しています。詳しい解説もついていて、ただ坊主めくりで遊ぶだけでなく、大人と同じ本格的な百人一首のルールも覚えられました。
 学習的な役割がなくなり漫画雑誌になってしまった現在では、どちらも考えられないふろくですが、「百人一首」は学校で習うだけでなく、近年漫画などで話題になったことで興味をもった少女たちも多そうなので、「もう一度ふろくになってもいいのにな」と思っています。

 次は、お正月のならわしについてのふろくを見てみましょう。

 年のはじめに神社やお寺に行き、一年の安全や幸運を祈る行事である初詣。お参りを済ませたあとのお楽しみは、おみくじを引くことです。今年の運勢を気持ち的に左右するものなので、吉がでるか凶がでるかドキドキしながら引いたおみくじを開いたものでした。

 『なかよし』では1976年から1980年の1月号に「湯島神社しあわせおみくじ」、『ちゃお』では1978年と1979年の1月号に亀戸天神の「しあわせ祈願おみくじ」をふろくにつけました。どちらも有名神社のおはらい済みという点でご利益がありそうです。ただ、「自分の手元にあるのは大吉だが、凶やほかの結果はあるのだろうか、もしかしたら全部同じ内容なのでは……」という疑惑を子どもながらに抱いてしまいました。果たして、真相はいかに――
 箱を振って逆さにすると穴からおみくじがでてくる「りぼんおみくじ(りぼん 1987年1月号)」や、上の穴からサイコロを3つ入れて箱をふり、下の穴からでた目の組み合わせでラッキーアイテムやラッキージンクスがわかっちゃう「カラカラおみくじBOX(ちゃお 2000年1月号)」など、ふろくで気軽におみくじ遊びを楽しめました。

 札に願いごとを書いて神社におさめる絵馬は、もともと神様の乗り物である馬をおさめていましたが、あまりにも大変なため、木の額に馬の絵を描いておさめるようになったことがはじまりといわれています。
 「ヘリタコぷーちゃん 新年パタパタ絵馬(ちゃお 1995年1月号)」や「おねがい!わんころ絵馬(なかよし 1996年1月号)」などがふろくになっています。

 身につけて神様に守ってもらうためのお守りも登場。「なかよし大明神 おまもり&おまもり袋(なかよし 1983年1月号)」は、『なかよし』の神様が願いをかなえてくれるとのこと。少女たちにとってはとても心強かったことでしょう。

 お正月の夜に気になることといえば、どんな初夢を見るかです。初夢とは1月1日または2日の夜に見る夢のことで、昔は夢が脳の働きによるものとはわからなかったため、夢の良し悪しで未来を占っていました。良い夢を見るために、七福神が乗った宝船の絵に回文を書いた紙を枕の下に入れて寝たりしていたそうです。
 「すてきに初夢まくら(なかよし 1989年1月号)」は、ストローで空気を入れてふくらませるビニール製のミニ枕。初夢に出てくるとおめでたい「一富士、二鷹、三なすび」のイラストが描かれています。
 なぜ「一富士、二鷹、三なすび」なのかは、「富士=無事、鷹=高く、なすび=事を成す」や、徳川家康が駿河にいたころの高い順番「富士=富士山、鷹=愛鷹山、なす=そのころ値段が高かったなす」などの様々な説があります。
 かわいく描かれた縁起ものの枕で寝ると、いい初夢が見られそうですね。

 少女たちにとってお正月の一番の楽しみは、なんといってもお年玉です。
 歳神様にそなえた丸いおもちを「年玉」といい、昔は年の初めに、いちばん年上の人から家族にこのもちが贈られるならわしがありました。ここから、年の初めに贈られる品物やお金を「年玉」とよぶようになったそうです。
 1960年代からお年玉を入れるためのポチ袋がふろくにつくようになりました。「お年玉袋(りぼん 1964年1月号)」の「中味はパパやママからいただいてね」や、「あけましておめでとうお年玉袋(なかよし 1969年1月号)」の「お正月にはこの中にお年玉を入れていただきましょう。いまから、おうちの方にわたしておいてね!」という説明書きのように、お父さんやお母さんに袋をあらかじめ渡しておいて、お正月に中身をいれてもらうという手順を想定しています。
 その後は「お年玉ください袋(りぼん 1983年1月号)」や「“たくさんちょうだい”お年玉ぶくろ(なかよし 1990年1月号)」、「お年玉よろしく袋(りぼん 1996年1月号)」「お年玉おねだり☆さいふ(なかよし 2003年1月号)」などと、ふろくの名前も願望まるだしになっています。

 さらに、「Pなつ通り おさいせん貯金箱(なかよし 1990年1月号)」や、「ふぉうちゅんドッグす 飛び出すおみくじ貯金箱(なかよし 2003年1月号)」などの、もらったお年玉を貯めておくための貯金箱も1月号によく登場するふろくの一つでした。

 どれだけお年玉をもらえるのかは、いつの時代も少女たちにとってはかなり重要な問題なのですね。

※行事・風習の由来については諸説あります

〈参考文献〉
『親子でたのしむ日本の行事』平凡社 2014年
『かこさとし こどもの行事 しぜんと生活 1月のまき』かこさとし 文・絵 小峰書店 2011年
『親子で学ぶ 季節行事とマナーの基本』クレア 編著 毎日コミュニケーションズ 2007年

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