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2015年12月31日 (木)

ふろくの花園 27.新世紀のふろくの花園 (5)もっと漫画も好きになって!

 近年、日本の漫画・MANGAはいわゆる“クールジャパン”を代表するコンテンツとして海外からも注目を集めていますが、少女漫画雑誌『なかよし』『りぼん』『ちゃお』の発行部数は下降線をたどり、そのふろくもファッション性を重視したために漫画色が薄くなってきています。
 さらに、毎日新聞社と学校図書館協議会が2015年に実施した「第61回学校読書調査」から、小学生が1か月間に読む雑誌の平均冊数が過去30年間でどのくらい変化したかを見てみると、1980年代後半の約10冊をピークとして、2015年は4.0冊と半分以下に減りました。1か月間に全く雑誌を読まなかったという回答も小学生の39%を占めており、子どもたちの間にも雑誌離れの傾向が出てきていることが見てとれます。

 ふろくから漫画が姿を消しても、現在の『なかよし』『りぼん』『ちゃお』が漫画雑誌であることに変わりはありません。子どもたちが雑誌から離れつつある中で、とにかく「雑誌を手に取ってもらいたい、漫画を読んでもらいたい」ことが、作り手側の切なる願いなのでしょう。

 ここ数年、イラストや漫画を描くためのふろくがしばしば登場するようになりました。そこには、すでに漫画が大好きな少女たちの「先生たちのようにステキなイラストが描けるようになりたい」「まんが家になりたい」という気持ちに応えるだけでなく、作り手側からの「“オシャレ”だけでなく、漫画にも興味を持って楽しんでほしい。もっと漫画も好きになって!」という強い思いも込められているのです。

 21世紀を迎えるまでは、「Do!! 少女まんが(ちゃお 1982年5月号)」や「まんが家になろう!-DREAMS COME TRUE(なかよし 1998年4月号)」などの別冊ふろくで、人物や背景、効果線、コマ割り、ストーリーの作り方といった漫画の描き方を紹介していました。漫画独特の表現方法であるカケアミや集中線を、よく真似してえんぴつで自由帳に描いていたものです。

 21世紀を迎えるとイラストや漫画の描き方だけでなく、新世紀の“ホンモノ”ふろくだからこそできる、描くための道具もふろくに登場します。

 うつし絵の要領でイラストが描ける玩具「スララ」の体験版として楽しめる「ちゃおオリジナルスララ(ちゃお 2001年8月号)」を始めとし、テンプレートやカラーペン、ミニ原稿用紙や描き込み式コミックレッスンノートがついた「劇的まんが上達スーパーふろく(ちゃお 2008年1月号)」、えんぴつ型グリップシャーペンと細がきイラストペン0.35を使って、写せるミニスケッチブックにあこがれの本格イラストがスラスラ描けちゃう「本格イラストツール(りぼん 2013年1月号)」、0.5ミリと極細0.35ミリの細がきイラストペン2本セットに憧れのスクリーントーン、トレーシングペーパーと20種類のお手本シートで、なぞって、うつして、すぐ描ける「超カンタン★イラストステップアップセット(2014年1月号)」、ペンをさしてスプレーでシュッとカラーリングできちゃう「ぷにぷにちいちゃん スプレーツール&マジカルスプレーペン5本セット(ちゃお 2015年12月号)」などの“ホンモノ”ふろくで、気軽にイラストや漫画を描くことを楽しめるようになりました。

 そして、さらに進化した本格仕様の道具が「まんが家セット」としてふろくに登場したのです。

 なぞるだけで先生の原画そっくりに描けちゃう原稿用紙や人物レッスンシート、キラキラ修正ペン、本物スクリーントーン、5種類のイラストステンシルなどがセットになった「スーパー最強まんが家セット(なかよし 2013年3月号)」、マジックカラースクリーントーンやオールマイティートレースシートに加えて、下がき専用水色えんぴつと特製カラー筆ペン3本、なぞるだけプロ原稿などがセットになった「進化系まんが家究極セット(なかよし 2013年9月号)」、光るボードでスラスラ写し描きができるライトボックス、絶妙な太さ0.38ミリのオリジナルコミックペン、12種類のスクリーントーン、ミニサイズ原稿用紙などがセットになった「パーフェクトコミックセット!!(ちゃお 2014年3月号)」、ピカピカ光る★トレース台と先生方かきおろしのお手本イラスト、ポーズとり放題の美少女トルソー、うつすだけプロシート、コミックスのカバー&帯もついて自分が作者の本格コミックスが作れちゃう「史上初!コミックスが作れるまんが家セット(なかよし 2015年2月号)」、昨年からサイズも明るさも約1.5倍になった究極ライトBOX、マルチポーズデッサン人形、プロも使ってる0.38ミリのオリジナルコミックペン、ミニ原稿用紙、オリジナルスクリーントーン4枚、リアルまんがテンプレートなどがセットになった「今すぐデビュー!? 究極まんが家セット!!(ちゃお 2015年4月号)」、水色芯シャーペン、つけペンの描き味を再現したりぼんコミックペン、ツヤベタ用筆ペン、りぼん特製原稿用紙、スクリーントーン8柄、作画レッスンシートなど、りぼんまんが家完全監修のプロ仕様で投稿用封筒つき、今すぐまんがを投稿できちゃう「まんが家デビューセット(りぼん 2015年9月号)」と、憧れの先生方が使っているような、憧れのあの道具の数々が雑誌を買うだけで手に入るのです。これらの道具はお店で買うと、やはりある程度の値段になるため、「欲しいけど、自分のお小遣いで揃えるのはちょっと……」とためらっていた少女たちには何よりのプレゼントとなりました。

 この「まんが家セット」には、漫画の描き方や道具の使い方が丁寧に説明されたガイドブックもついているため、漫画がどのように作られているのか、どのように描かれているのか、といった漫画のしくみも知ることができます。これまではただ漫画を読んで楽しんでいただけの少女たちも、学校で使っているモノとはちょっと違ったカッコよさを持つペンを実際に使ってみたり、ガイドブックを読んだりしたことで、「今まで読むだけだったけど、自分でも描いてみようかな」と、漫画の世界にもう一歩深く足を踏み入れたくなることでしょう。そしてこれこそが、「もっと漫画も好きになって、漫画を描くことにも興味を持って、新世代の雑誌生まれのスターとして輝いてほしい」という作り手側の思いにつながることなのです。

 さて、「19.雑誌が生んだ人気者 (2)憧れの先生・まんが家 」で、昭和45年の子どもたちの「なりたい職業」調査で「まんが家」がすでにベスト10入りしていたことにふれましたが、果たして今の少女たちも「まんが家」になりたいと思っているのでしょうか。
 第一生命保険株式会社が全国の未就学児および小学生を対象に1989年から2014年まで毎年実施していた「大人になったらなりたいもの」アンケート調査によると、女子の「まんが家」は2014年の9位と、2009年以来のベスト10入りとなりました。これまで26回の調査のうち11回で9~10位にランクインしています。順位は決して高いわけではなく、毎年必ずしもベスト10入りしているわけではないのですが、なりたい職業として名前があがるということは、「まんが家」はいつの時代でも、少女たちにとっては憧れとなる特別な職業の一つであることに変わりはないのでしょう。ちなみに2010年以降「まんが家」と入れ替わるように「デザイナー」が毎年ベスト10入りしていて、2014年も「まんが家」と同率の9位となっています。これが「ファッションデザイナー」ならば、今の少女たちが“オシャレ”に興味をもっているということが、将来の夢という点からも見てとることができるのです。

 昭和50年代に誕生した雑誌生まれの3大スター、マスコットキャラクター・まんが家・漫画作品の輝きが弱まってきた現在、漫画作品とキャラクター(登場人物)の力だけで漫画雑誌を手に取ってもらうことは難しくなってきています。今後は乳幼児向け雑誌から、市販のキャラクターを取り上げた雑誌を経て、小学生向けファッション誌へ向かうという、『なかよし』『りぼん』『ちゃお』を読むことなく、漫画に興味を持たずに成長していく少女たちも増えてくるかもしれません。雑誌を手に取って、漫画を読んでもらうためには、まず今の少女たちが好きそうなオシャレな小物ふろくで興味を引く必要があるのです。
 「17.新規参入-『ひとみ』の場合(後)」で世の中にまだ認知されていない少女漫画雑誌のふろくについて、「人気作家・漫画に依存しなくても純粋にアイディアで勝負できるふろくは、まだ漫画のことがよくわからない少女たちにも、自分たちの雑誌や漫画の魅力をアピールできる絶好のツールになりえた」と書きましたが、伝統ある『なかよし』『りぼん』も発行部数が急落し、雑誌生まれのスターの存在感が薄まったことで、このふろくの役割・重要性を改めて認識したのではないでしょうか。

 昭和30年代から21世紀の現在まで、60年分のふろくとその時代ごとの特徴を振り返ってきましたが、雑誌とふろくが時代によって姿を変えていったことを感じ取っていただけたかと思います。それぞれの時代を生きる少女たちのニーズに合わせて作り出されるものだからこそ、ふろくは時代を映すものといえるのです。
 市販のグッズを紙で再現した昭和50年代のふろくで育った自分が、昭和30年代の漫画ではない皇室や勉強のふろくを見て驚きと新鮮な感動を覚えたように、新世紀のふろくで育った少女たちは、昭和50年代以前の紙製ふろくを見て同じように感じるのでしょうか。
 21世紀を迎えたばかりの15年前は、『なかよし』『りぼん』『ちゃお』のふろくが現在の姿になることは全く想像していませんでした。今後どのような変化を見せていくのかはわかりませんが、これからも「ふろくの花園」は少女たちとともに咲き続けていってほしいと願っています。

 これまで、それぞれの雑誌と時代を特徴づける様々な花園を巡って参りましたが、このご案内はひとまずここまでといたします。引き続き、園内をお楽しみくださいませ。

〈参考文献〉
「第61回学校読書調査:知識広げるマンガ 文化変えるスマホ」毎日新聞 2015年10月27日朝刊
「第一生命 夏休みこどもミニ作文コンクールアンケート 第26回 大人になったらなりたいもの(2014年7~9月実施)」第一生命保険株式会社 webサイトより

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