ふろくの花園 24.新世紀のふろくの花園 (2)街の人気者、再来
2001年に「雑誌作成上の留意事項」が大幅改訂された要因のひとつに、1998年以降の雑誌市場の落ち込みがありました(23.新世紀のふろくの花園 (1)ホンモノがふろくに!?参照)。それは、女子小学生向けの漫画雑誌でも同じことだったのです。
TVアニメ化されるほどの人気漫画とキャラクターを次々と繰り出し、上昇を続けた『なかよし』と『りぼん』の発行部数は、1994年ごろにそれぞれ210万部、255万部と最高を記録します。しかしそこが頂点で、2000年にはそれぞれ51万部、132万部とこれまでの人気が信じられないほど急落してしまいました。TVアニメをきっかけに雑誌を買うようになった読者が作品の連載終了で離れたり、子どもたちの興味がゲームや携帯電話、インターネットなどに向き、雑誌を利用する機会が少なくなってしまったり、さらには少子化が進んでいたりと理由はいろいろ考えられます。少女たちの心をつかむものが漫画雑誌の他にも世の中に数多く存在するようになったことで、雑誌から生まれた3大スター“マスコットキャラクター・まんが家・漫画作品”の、少女たちをひきつける力が以前より弱まってしまったことは否めないでしょう。
それと時を同じくして、1990年代の終わりごろから主に『なかよし』と『ちゃお』で、芸能界の人気アイドルや、ゲームやアニメ、メーカー生まれのキャラクターが大々的に漫画やふろくに登場するようになりました。いわゆる“街の人気者”たちが、昭和40年代以来、再び少女漫画雑誌やふろくに戻ってきたのです。
まずは20世紀末に登場した“街の人気者”のふろくから見てみましょう。
1998~2001年にかけて、年に一度の『なかよし』恒例ふろくとなったのが、「NAKAYOSI
IDOL BOOK〈なかよしアイドルブック〉」です。ともさかりえ、宇多田ヒカル、モーニング娘。、w-inds.など当時の人気アイドルが勢ぞろい。カラーグラビアやインタビューのほか、アイドルデータファイル、アイドルが出演するTV番組やCMの情報など企画特集満載で、ふろくだけど読み応えもある別冊でした。『明星』や『平凡』の『なかよし』版といったところでしょうか。
もうひとつの人気者は、安室奈美恵やSPEEDなどの人気スターを次々生み出し、少女たちの憧れとなった沖縄のタレントスクール、「沖縄アクターズスクール」です。このスクールを舞台にした漫画『はじけてB.B.』が1997年から『ちゃお』で連載され、読者の少女たちと同年代のアクターズスクール所属アイドルが1998~1999年ごろのふろくに登場しています。
次は、ゲームという新しいメディアから生まれた人気者です。
1996年にバンダイから発売されたペットを育てる携帯ゲーム機「たまごっち」は、発売直後から女子中高生の間で大ブレイク。品切れが続出し常に品薄の状態が続き、次はいつ店に入荷するのかが話題となりました。入荷日には徹夜で行列しないと買えないこともあったそうです。この「たまごっち」のキャラクターが1998年ごろ、『なかよし』と『ちゃお』でふろくのイラストになりました。ちなみに「たまごっち」は21世紀に入り再発売され、2005年ごろから再び『ちゃお』に登場しています。
同じ1996年に任天堂から発売されたゲームボーイ用ソフト「ポケットモンスター」は、ポケモンワールドに住むいろいろな種類の生き物“ポケットモンスター(通称ポケモン)”を捕まえて、友だちと交換しながら集め育てていくゲームです。その楽しさが子どもたちを魅了し、TVアニメにもなった言わずと知れた人気作品で、『ちゃお』で1997年から『PiPiPi★アドベンチャー』として連載されました。少女向けに、ポケモンを集める主人公を女の子にしてポケモンたちもかわいくキャラクター化。黄色いねずみポケモン・ピカチュウを中心にしたふろくも多数登場し、少女たちの人気を集めました。
21世紀を迎えても“街の人気者”は続々とふろくに登場します。
1997年にTVのオーディション番組でグループを結成、1998年にメジャーデビューしたアイドルグループの「モーニング娘。」。『なかよし』では、彼女たちの笑顔の裏に光る汗と涙のストーリーをリアルに再現した『娘。物語』が2001年から連載されました。ふろくも多数登場しましたが、中でもメンバーの1人・後藤真希ちゃんのフィギュア「モーニング娘。キャラクターマスコットなかよしバージョン(2001年12月号)」が話題となりました。また、2000年に結成された派生グループ「ミニモニ。」も2001年から『ちゃお』に登場しています。
2005年に誕生して2009年ごろから広く人気を集めるようになり、「握手会」「選抜総選挙」「じゃんけん大会」など常に世の中に話題を提供し続けている“国民的アイドル”「AKB48」もついに『なかよし』にやってきました。彼女たちをモチーフとした漫画『AKB0048』が2012年から連載開始。遠い未来の「AKB48」は「AKB0048」と名前を変え、初代48の神話性を守るためにメンバーの「襲名性」をとっているという設定で、ダメッ子研究生の主人公がオーディションで大失敗しちゃったけど、“伝説のセンター・あっちゃん”を襲名することになるという、少女漫画によくあるシンデレラストーリーです。「AKB0048 あっちゃん&まゆゆ&ともちん きせかえシール(2012年6月号)」や「AKB0048
神セブン占い☆せんす(2012年8月号)」など、かわいくキャラクター化された人気メンバーたちが描かれたふろくが登場しました。
1974年に誕生したサンリオのキャラクター「ハローキティ」が、1997年ごろに当時の人気芸能人がファンであることを公言したことでブーム再燃。女子高生・OL・主婦などに向けた商品も発売され、海外でも人気に火がついたといわれています。この“キティちゃん”が2001年に『ちゃお』、2007年に『りぼん』のふろくに登場しました。“キティちゃん”は昭和50年代も少女たちの人気者だったのですが、当時は『なかよし』や『りぼん』などのふろくになることはありませんでした。メーカー生まれのキャラクターがふろくにそのまま登場するということは、残念ながら、雑誌生まれの「マスコットキャラクター」の力が弱まったことのあらわれになってしまうのでしょうか。
そして最近、少女たちの間で人気が出てきたキャラクターが、2012年ごろにサンエックスから誕生した「すみっコぐらし」です。「すみっこにいると“落ちつく”動物やモノたち」で、2015年から『りぼん』と『ちゃお』でシールやメモがふろくになっています。
「妖怪ウォッチ」は「ポケットモンスター」同様、ゲームソフトやTVアニメ、玩具が人気となり、『ちゃお』で2014年から女の子キャラのフミちゃんを主人公にして漫画の連載が開始されました。猫の妖怪「ジバニャン」や狛犬の妖怪「コマさん」のかわいいイラストのシールやメモがふろくになっています。
さらには、あの千葉県船橋市の非公認キャラ「ふなっしー」も『ちゃお』に登場。組み立て式の「ジャンピングヒャッハー貯金箱(2015年6月号)」がふろくになりました。
21世紀に入って新しく登場した少女たちにとっての“人気者”は、ファッション・おしゃれをテーマにしたアーケードカードゲームです。
「トレーディングカードアーケードゲーム」ともいわれる、アイテムカードを集めてプレイするアーケードゲームで、主に玩具店、ショッピングモールやデパートなどの玩具売り場やゲームコーナーに置かれています。1回100円から遊べて、お金を入れるとファッションアイテムが描かれたカードが出てきてゲームが始まります。昔からの少女遊びの定番“着せかえ”の要素を取り入れていて、手持ちのアイテムカードを組み合わせて、選んだキャラクターの「髪型」「洋服」「靴」「アクセサリー」などをコーディネートした後に、リズムゲームによるパフォーマンスステージに挑戦するのが大体の流れです。
2004年の「オシャレ魔女 ラブandベリー」を始めとし、2010年に「プリティーリズム」、2012年に「アイカツ!」、2014年には「プリパラ」と、この種類のゲームが次々と登場します。ゲームで遊びながらファッションを覚えられ、おしゃれに興味を持つことで、低学年の少女たちにもファッションが身近なものとなり、自分でおしゃれをすることが当たり前になっていったのです。
『ちゃお』では2006年ごろから、これらのゲームで遊べるアイテムカードやゲーム情報が毎号のようにふろくになっています。ゲーム機の形をした「オシャレ魔女
ラブandベリー スーパーキュートボックス(2006年8月号)」は、ただ小物入れとして使うだけではなく、ゲームのことを知らない少女たちへの「お店にある、この形の機械で遊ぶんだよ」というガイド的役割も持ち合わせていました。
そして「プリティーリズム」は『りぼん』にも登場します。『ちゃお』の2011年より早く、2010年より漫画の連載を開始。ゲームで使用するファッションアイテムカードとなる、ハート型をしたプラスチック製の「プリズムストーン」がふろくになりました。
ふろくのアイテムカードはいずれも雑誌オリジナルのデザインで、雑誌を買わないと手に入らないものだったため、このカードが欲しくて雑誌を手に取った少女たちもたくさんいたのではないでしょうか。
こうして、“街の人気者”たちを積極的に取り入れてきた『ちゃお』は、『なかよし』と『りぼん』の発行部数が急落していく中でも次第に発行部数を伸ばし、1999年に『なかよし』の、2004年には『りぼん』の発行部数をも抜いて、ついに3誌のトップに立ちました。
少女たちの好きなもの、欲しいものを追求してきた少女漫画誌のふろくですが、雑誌生まれの3大スターの輝きが弱まり、雑誌から生まれたまんが家が漫画を描いてアニメ化し、それをふろくにすれば即雑誌が売れるという時代ではなくなってきたという現実を認めて、“街の人気者”たちをそのまま受け入れざるを得なくなってきたのです。特に、昭和50年代以降、雑誌生まれの作家・作品とその世界観を大切に守ってきた『りぼん』が、『ハローキティ』や『プリティーリズム』で外部の作品・キャラクターと手を結び、それを前面に押し出したことは衝撃的といっていいほどの出来事で、とても大きな決断だったに違いありません。それほど発行部数の落ち込みは深刻なことだったのでしょう。
“街の人気者”の力を借りた結果、昭和40年代の「街の人気者をみんなで共有する」ふろくの時代がまた戻ってきつつあります。モノが豊富でなんでも揃っている新世紀のふろくが、まだモノが揃いきっていない時代のふろくに近くなってきているのは、興味深いことですね。
ただ、ゲームのアイテムカードは、雑誌やふろくの中だけで完結するものではなく、雑誌の外の商品で楽しむもののため、別にお金を使わないとふろくで遊ぶことができません。バブル崩壊やリーマンショックの影響を受けた景気の低迷で、モノが売れなくなったといわれていることもあり、子どものモノにもお金を使ってほしいという商業的な事情も多少見え隠れしているように感じます。
“街の人気者”が雑誌やふろくに登場することで、雑誌のふろくは商品の広告ツールとしても使われるようになってきました。
そして新世紀を迎えた数年後、雑誌生まれの3大スターの輝きが弱まっただけでなく、少女漫画雑誌とそのふろくのあり方をさらに大きく揺るがすムーブメントが少女たちの間で起こり始めていたのです。
〈参考文献〉
『雑誌新聞総かたろぐ(1979年版~2015年版)』メディア・リサーチ・センター 1979年~2015年
『週刊日録20世紀 1997年』講談社 1999年
『週刊日録20世紀 Special17 懐かしのオモチャ・絵本・遊び』講談社 1999年
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