ふろくの花園 23.新世紀のふろくの花園 (1)ホンモノがふろくに!?
2001年(平成13年)、21世紀の幕開けと時を同じくして、雑誌の付録も新しい時代を迎えることになりました。
同年5月、日本雑誌協会が国鉄の雑誌特別運賃制度の規定を元に自主基準としてまとめ、昭和61年に導入された「雑誌作成上の留意事項」(21.規制への挑戦 (1)紙でどこまで作れるか参照)が大幅に改訂されたのです。
その背景には、平成に入ってからCD-ROMをはじめとする電子記録メディアの登場で、これまでの基準に合致しない事例が相次いだことと、1998年(平成10年)以降の雑誌市場に陰りがでてきたことがありました。1995年(平成7年)に「Windows95」の発売でパソコンがより身近なものになったことや、携帯電話の新規加入料と基本使用料が大幅値下げとなり契約者数が一気に増加したことで、情報の入手手段に新たに「インターネット」が加わり、従来のメディアよりも早く大量に情報を得られるようになったこともその要因でしょう。こうして、留意事項の全面的な改訂機運が高まっていきました。
この改訂によって、週刊誌にも付録がつけられるようになり、記録再生メディア全般を付録にできるようになりましたが、いちばん大きな変化は、付録の形状と材質に関する細かい規定ができるかぎり削除あるいは簡素化されたことです。改訂前は「本誌の重量以内とする」と定められていた付録の総重量は「本誌の重量以内“を基準”とする」に、付録のかさ高については「本誌と付録の合計のかさ高は5cm以内」から「“付録”の合計のかさ高は“3cm以内を基準とする”」に変わりました。これにより、付録の量を従来以上に増やすことができるようになったのです。また、紙以外の材質を付録に使用する際に、従来は一つ一つの材質について大きさ・重さ・厚さ・長さ・数量が細かく決められていましたが、改定後は「雑誌の形態上の規定をみたし、流通上支障のないようにする」と「安全性、環境保護に充分配慮する」の記述のみになり、付録に使用できる材質に事実上制限がなくなりました。
こうして総量も増え、紙だけでなくプラスチックや金属、布も使えるようになったことで、大人の使用にも耐えうる市販品と同等の本格的な品物、いわゆる“ホンモノ”が付録になりました。雑誌を手に取ってもらうために付録をつけることが、大人向けの雑誌でも行われるようになります。雑誌の付録は子どもだけのものではなくなり、幅広い世代に向けたものへと変わっていったのです。
特に女性誌は、ブランドメーカーなどとの共同企画を相次いで実現させたグッズをはじめとして、バッグ、ポーチ、アクセサリー、ストッキングやショーツまで様々な実用品を付録につけて、その豪華さを各誌で競い合います。その様子が“女性誌の付録合戦”としてテレビや新聞で取り上げられ、話題になったことを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。女性誌の読者たちは久しぶりに付録を手にして、『なかよし』『りぼん』『ちゃお』『ひとみ』のふろくを毎月楽しみにしていた、少女のころのわくわくした気持ちを思い出しているのかもしれませんね。
そして、『なかよし』『りぼん』『ちゃお』にも“ホンモノ”ふろくが登場します。市販品と同等のふろくをつけられるようになったことで、これまでのように紙で市販品を再現する必要がなくなったのです。
輪ゴムやスナップ、ひもなどで止める部分を工夫していた紙製のファイル、ペンケース、下じきは、ファスナーで開け閉めするファイルケース、バインダー部分に金属を使ったクリップボード、2段式の缶ペンケース、プラスチック製の下じきに生まれ変わりました。
小物入れ、ランチボックス、トランクも、プラスチックや缶でできた完成品で届けられ、折りたたんである本体を起こしたり、部品を切り取ったり、説明書を見ながら組み立てる必要もなくなりました。
さらに、これまででは考えられなかった、時計や扇風機といった電池で動くもの、ボールペン、シャープペン、消しゴム、カラーペンセットなどの筆記用具もふろくにつけられるようになりました。
かつて、このような紙製品ではないグッズは、本誌で時折り行われる「全員サービス」で応募券を集め、切手や為替を送って購入していたものでした。それと同じレベルの品物が、今では雑誌を買うだけでもらえるのですから、確かにふろくは豪華になったといえるでしょう。
その一方で紙製ふろくに親しんだ自分からすると、“ホンモノ”ふろくが現れた当初は特に、大量生産・工業製品の無機質な印象を受けざるを得なかったのが正直なところでした。これまでのように手作りのあたたかみや、製作担当者の「市販品には負けないぞ!」という熱意や意気込みが伝わりにくくなってきたことに寂しさを感じたし、「子どもたちに完成品をただ与えるだけでいいのか? 自分でモノを組み立てることで達成感を味わったり、想像力や創造性を育む機会が少なくなってしまうのでは?」と危惧する気持ちもありました。
しかし、「14.『なかよし』少女たちのお友達」で、昭和40年代から50年代への『なかよし』『りぼん』の変化について、「雑誌は世に連れ人に連れ変化していく生き物のようなものなので、世の中の流行・嗜好が変わってきたり、次の世代の作家が出てきたりすると、雑誌はまた別のスタイルを見せていきます」と書いたとおり、新世紀を迎え、留意事項の改訂から10年以上が経った現在、21世紀の少女たちと少女漫画雑誌をとりまく状況は、確かに前世紀とは変わってきているのです。その変化を、21世紀の少女漫画雑誌のふろくから見ていきましょう。
今を生きる少女たちの好きなものや欲しいものを詰め込み、彼女たちへの思いや願いを込めて作られる、新世紀の「ふろくの花園」へみなさまをご案内いたします。
〈参考文献〉
『日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史』社団法人
日本雑誌協会、社団法人 日本書籍出版協会 2007年
『週刊日録20世紀 1995年』講談社 1999年
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