ふろくの花園 22.規制への挑戦 (2)水にも強い新素材
大きさや量、材質といった付録への様々な規制の中で、職人技ともいえる作り手側の熱意のもと、市販の文房具やバッグ、インテリア小物などの実用生活用品が紙によって次々と再現されていきました。しかし、外見上での再現は可能でも、その強度の再現は難しく、紙が持ち合わせる“破れやすさ”と“水ぬれ”という弱点に直面することとなります。そんな中でも作り手側は、新技術と新素材の開発によって、付録作成上の規制だけなく、素材上の規制にも挑んでいったのです。
これらの新技術と新素材は、主に外で持ち歩いて使うことの多いバッグ類によく使われていました。
まずは、「サマー・キャンディ」(なかよし 昭和52年7月号)のように紙製の袋にビニールのカバーをかけたもの。市販の紙袋にもよく見られたタイプです。また、「おはようスパンク チャーミングサマーバッグ」(なかよし 昭和54年8月号)は、全てがビニール製という少女たちにとっては超豪華なつくりでした。
さらに、「りぼにすとバッグ」(りぼん 昭和53年9月号)や「ハミング・バッグ」(りぼん 昭和54年4月号)のような、上質紙にポリプロピレンフィルムを熱接着して圧をかけ、ツヤ出し加工をしたものが登場しました。「水にぬれてもへ~チャラ ツルツルピカピカの超ゴーカ新製品!」「雨にぬれても平気!」などのコピーどおり、表面の防水加工がされています。ツルツルした手ざわりと、ピカピカと光を反射することから、このタイプのバッグは“ツルピカ加工”や“ツルピカバッグ”とよばれ、その後もおなじみのふろくになりました。もう一つ、ポリエチレンフィルムを熱接着して防水加工をしたタイプもありましたが、こちらは“ツルピカ”ではなく、表面はしっとりとしたロウのような感触で光の反射もひかえめとなっています。
そして昭和55~56年ごろ、バッグ類のふろく予告に“新開発”や“新素材”というキーワードがくりかえし登場します。それらのバッグは不織布や、ポリエチレン、ポリプロピレンといったプラスチック樹脂からつくられた素材を用いており、紙でも布でもビニールでもない、今までになかった水にも強く丈夫な素材のふろくであることを強調していました。この時期に集中してこれらのふろくが登場したのは、昭和53~54年ごろに国鉄が雑誌の付録に特殊紙や不織布の使用を承認したことや、同時期に大手印刷会社の開発担当者が「水に濡れても破れない」「丈夫でかつ中身が透けて見える」素材を積極的に編集部にプッシュして付録への採用を計ったことがあったようです。
“ビニール製”という言葉だけでも、ものすごく特別で豪華なふろくを期待してしまうのに、「紙でも布でもビニールでもないって、いったいどんなふろくなの?」と、少女たちの心をワクワクさせた、“水にも強い新素材”バッグの代表的なものを予告のコピー(一部)とともに見てみましょう。これらのコピーからも「新開発の新素材でスゴイふろくなんだぞ! どうだ!」という作り手側の熱い気合いが伝わってきます。
「メイミーエンジェル
アイビーカジュアルバッグ」(なかよし 昭和55年5月号)は不織布製です。
・新開発 紙でもない布でもないふしぎな材質
・おりたたみ自由 おどろきの強度 ぬれてもかわけばもとどおり
・世界であなたがはじめてつかうのよ
・どんなに説明しても、説明しきれないすばらしさ。4月3日、とにかく本屋さんにいってみてね
今やいろいろな製品に使われている不織布ですが、この当時の少女たちにとっては未知の世界だったようです。「おねえちゃんと両はしをもってひっぱりっこしたけどぶじだった」という強度をためしてみたり、バッグの中にわたやパンヤを入れてクッションを作ったというおたよりがありました。
「MILKY BAG〈ミルキー・バッグ〉」(りぼん 昭和55年1月号)は不織布にポリエチレンをコーティングしたもので、和紙のようにハリがあり、中に入れたものがミルク色にほんのりすけてみえるバッグです。
・とってもナウでとってもじょうぶ。新しい素材のユニークな、かかえバッグです
「スーパー・サマーバッグ」(りぼん 昭和55年8月号)は生地を厚めにしたポリエチレンにパール材を混ぜたもの。
・真珠色に光り輝いて、それはもう上品なんだから! いままで見たこともないキョーイのオリジナル品
・ぬれた水着をいれてもビクともしない! お水をいれて金魚を泳がせることだってできるのじゃ
・紙でも、ビニールでも、布でもない、新開発の丈夫な材質で~す
本当に水を入れてもこぼれないかを確かめるために、中に水を入れてみたというおたよりがありました。これだけ丈夫さを強調してあると、上の「メイミーエンジェル
アイビーカジュアルバッグ」にもありましたが、実際に試してみたくなるものですね。
「サマービーチバッグ」(なかよし 昭和55年8月号)と「グラフィティサマーバッグ」(りぼん 昭和56年8月号)は不織布とポリエチレンを熱接着したもので、布目がありレジャーシートのような手ざわりです。
・夏休みのおでかけは、このバッグ一つあればOK。ぬれた水着をいれちゃうことだってできるもん
・わっ おっどろき! 布目もようがはいったふしぎなビニール製 とってもじょうぶでかわゆいの
・水にはメチャンコつおいから、ぬれたタオル、水着を入れてもだいじょうぶ
・新素材でナウさブッチギリ!!
「ティムティムスプリングバッグ」(なかよし 昭和56年5月号)は、不織布とポリプロピレンを熱接着したもの。
・またまた新開発! ビニールと布の混血児のような材質 当然水なんてへっちゃらさ かわいくってオッドロキ~!
・1年間かけて開発した、魅力たっぷりの材質。これをのがしたら後悔しちゃうわよ~!
その後昭和60年代を迎えるころには、厚さや大きさの規制をクリアして、全てがビニール製のバッグが定番となっていきます。
これらの技術の進歩によって、破れや水ぬれを気にすることなく使えるようになっていったふろくのバッグ類は、海やプールなどに行く機会が多い夏の恒例ふろくになりました。
来年の夏はどんなバッグがふろくにつくのかな―― 少女たちは1年先のことまでも楽しみにしていたのです。
なお、“ビニール製”とは本来、塩化ビニル樹脂製のものを指すのですが、ふろくの説明では小さい子でもわかりやすいように、ポリエチレン樹脂やポリプロプレン樹脂でつくられたものもひっくるめて、耐水性のある材質を使用したものを“ビニール製”と称していたようです。
紙製の実用生活用品同様、いろいろな材質と技術を使いながら強度と防水力を上げていったふろくのバッグ類を見ていても、やっぱり“職人魂”や“日本の技術力”という言葉が浮かんできます。工夫と技術力でいかに弱点を克服して、さらに新しいものを作り上げていくか。“モノづくり日本”の真骨頂をふろくの中に見つけることができました。
〈参考文献〉
『トコトンやさしい プラスチック材料の本』高野菊雄
著 日刊工業新聞社 2015年
『不織布活用のための基礎知識』篠原俊一、福岡強、加藤哲也
著 向山泰司 編著 日刊工業新聞社 2012年
『日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史』社団法人
日本雑誌協会、社団法人 日本書籍出版協会 2007年
『「少年」のふろく』串間努 著 光文社 2000年
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