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2015年8月20日 (木)

ふろくの花園 21.規制への挑戦 (1)紙でどこまで作れるか

  『なかよし』と『りぼん』が生まれる以前から、雑誌とその付録は、国鉄を使って特別な運賃で日本各地に輸送されていました。円滑に輸送を行うため、国鉄は雑誌特別運賃制度の規定において、付録の大きさや量、使用できる材質一つ一つについて、個数、厚さ、長さ、大きさ、重さなどをこと細かに定めていたのです。そして、雑誌出版社は付録の試作品を国鉄に見せ、規定を満たしているかどうかの許可をもらう必要がありました。許可を得た付録には「昭和○年○月○日国鉄首都付録材質承認第○号」といった承認番号が表示されています。
 『なかよし』と『りぼん』の創刊当初に別冊ふろくが多かったのは、その少し前に少年雑誌の付録合戦が過熱したことによる材質制限が行われたことの影響があったからのようです。また、『ひとみ』昭和34年5月号には、特別運賃で対応できる付録の重量がこれまでより少なくなる規制が実施されたことについて、「こんど国鉄のおじさんたちがいろいろ相談した結果、雑誌のふろくがせいげんされます。そのかわり本誌の方がいままでよりずっとあつくなりますよ」とかかれていて、少女たちにも「国鉄がふろくのことを決めているんだよ」という“大人の事情”をさりげなく知らせていたのです。
 そんな国鉄絶対王政の中でも、日本雑誌協会は昭和31年の設立以降、雑誌出版界の意見・要望をもって国鉄当局と規定についての交渉を何度も重ねてきました。昭和62年の国鉄分割民営化に伴って、昭和61年に雑誌の特別運賃制度は廃止となります。しかし日本雑誌協会は同年、その規定を下敷きとし、取次会社の意見も反映して「雑誌作成上の留意事項」を自主基準としてまとめました。国鉄が姿を消してJRが登場し、トラック輸送が主流となっても、雑誌の円滑な流通のため、付録の大きさや量、材質についての規制は引き継がれることとなったのです。
 ちなみに学研の『学習』と『科学』は、国鉄を使わずにトラックで輸送を行っていたため、材質の制限を受けずにプラスチック製の教材を付録につけることができたそうです。

 昭和50年代のサンリオをはじめとする市販のキャラクターグッズの大流行により、文房具をはじめバッグやインテリア小物などに少女たちのニーズがますます高まっていきます。しかし、お店でステキな新商品を見つけても、限られたおこづかいの中では、財布をあけてため息をつきながら家に帰るということがほとんどでした。
 かわいくて、使えるグッズがもっとたくさん欲しいなあ―― 少女たちのそんな願いに応えるために、付録の規制の中で、制限のない“紙”※合成紙や特殊紙を除くを使ってどれだけ市販品〈ホンモノ〉を再現できるか、少女たちに喜んで使ってもらえる市販品〈ホンモノ〉以上のふろくを届けられるかが作り手側の大きな使命となり、雑誌独自のかわいいイラストが描かれた紙製の実用生活用品が、その規制に挑むかのように次々と作り出されていきました。

 まずは学校や習いごとで使える文房具。プリントを入れておくのに役立つファイルは、ポケットタイプや市販のルーズリーフ・レポート用紙がとじられるバインダー、クリップボード、フラットファイル、ホルダータイプなど種類も豊富です。ペンケースもタテ型やヨコ型、スマートタイプなどがあり、消しゴムや定規もバッチリ入りました。ペンケースやノート、小物などを入れて持ち歩ける大きめのケースも教室移動、社会科見学のときに便利なふろくでした。


 次はおでかけにも使えるバッグ類。スヌーピーのトランクやパティ&ジミーのランチボックスが人気となったころ、「マイ・キャンディ(なかよし 昭和52年5月号)」や「スパンクのWAOWAOレジャートランク(なかよし 昭和56年8月号)」、「デイトバッグ(りぼん 昭和52年10月号)」といった、手提げ式の箱型バッグが登場しています。ハンカチやお財布を入れて、友だちの家に遊びに行くときや家族での小旅行などに持っていきました。


 「おじょうさまポーチ(なかよし 昭和61年9月号)」にはビニール製の輪っかの持ち手がついており、それを手首に通しぶらさげるようにして持ち歩くという、当時流行していたかたちのポーチを見事に再現しています。

 そして、部屋の床に置いたり壁に飾ったりして使う大型の組み立て式ボックスは、その大きさと物をたくさんしまえる実用性だけでなく、えんぴつの形をした「わくわくランドペンシル・ボックス(りぼん 昭和61年12月号)」、缶ジュースのようにプルトップがついた「香澄ちゃん ドン♪ジャン♪プー CAN(りぼん 昭和63年2月号)」、赤い屋根のフタがかわいい「メルヘン・インテリア・ボックス(ひとみ 昭和54年6月号)」、まるで中にアイスクリームが入っているかのような「じゃんぼアイスクリームBOX(なかよし 昭和63年7月号)」、バスの車輪がくるくる回る「チャーミング・ラック(りぼん 昭和55年10月号)」など、思わず楽しい気分になってしまうデザインも少女たちの心をひきつけました。

 特に、「ファンシー・キャビネット(りぼん 昭和54年2月号)」は組み立てると高さ50cmを超える4段の棚になるという超豪華品で、次号予告でこの付録を見たときは、発売日が待ち遠しくてたまりませんでした。これはまさに“紙でここまで作れるんだよ”という、規制に挑んだ作り手側のやる気と気合いを感じさせるふろくの代表的なものと言えるでしょう。

 ひと回り小さいサイズの「空ちゃんのラブリーマガジンラック(なかよし 昭和60年3月号)」、「スパンクのファンシーラック(なかよし 昭和56年2月号)」、「コロポックルのデラックスラック(なかよし 昭和58年3月号)」、「ソーイング・ボックス(りぼん 昭和60年11月号)」などの、机の上に置いて小物を整理できる組み立て式ボックスも実用性が高く人気のふろくでした。

 「香澄ちゃん ミラーつきキャピキャピおしゃれラック(りぼん 昭和62年6月号)」は、上段のフタのウラが鏡のように加工されているためミニドレッサーとしても使うことができ、「園子のドリーミングボックス(なかよし 平成元年7月号)」はフタをあけると細かい仕切りがついていて、お姉さんやお母さんと同じようなアクセサリーケースを持てるというオトナ気分を味わえました。

 これらの組み立て式のふろくは、完成品もさることながら、雑誌に挟まれているときは小さく平らに折りたたまれていたものが、部品を組み合わせると大きく立体的なボックスができあがることに、不思議な感動を覚えたものです。引き出しや棚の仕切りが複雑になっているものは、子どもには難しい角度から部品を差し込んだり組み合わせたりする箇所もあるため、途中で部品を破ってしまいテープで補修しながら組み立てることもしばしばでした。こうしてできあがったときの喜びはひとしおで、一つのものを作り上げることの充実感や達成感をふろくを通じて知らず知らずのうちに学んでいたのです。

 使っているうちに破れてしまったり、カバンの中でつぶれてしまったり、少し重いものを入れると底が抜けてしまったりと、紙製品ならではの限界は確かにありました。それでも、雑誌を買ったらついてくる“ファンシーグッズ(を再現したもの)”は少女たちにとって、時には連載漫画の続きよりも待ち遠しく、市販品〈ホンモノ〉以上に愛着を感じるものでした。少女たちはもちろん、付録の規制のことなどわかりません。しかし、市販品〈ホンモノ〉とは違うけど、このふろくを好きになってほしい、楽しんでほしいという作り手側の気持ちをきちんと受け止めて、ふろくと親しんでいたのでしょう。

 紙製の実用小物ふろくの数々を眺めていると、作り手側の熱意が伝わってくるのと同時に、“職人魂”や“モノづくり日本”という言葉が浮かんできます。限られた条件のなかで、どれだけ良いものを作って提供できるか。まさにモノづくりの醍醐味がふろくの中にも存在しているのです。

〈参考文献〉
『日本雑誌協会 日本書籍出版協会 50年史』社団法人 日本雑誌協会、社団法人 日本書籍出版協会 2007年
『雑誌協会報 1999年8月号』社団法人 日本雑誌協会
『「少年」のふろく』串間努 著 光文社 2000年

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