ふろくの花園 18.雑誌が生んだ人気者 (1)マスコットキャラクター
昭和40年代後半、『なかよし』と『りぼん』は少女雑誌から少女“漫画”雑誌へと完全に姿を変え、昭和50年代前半には『ちゃお』と『ひとみ』が創刊されました。この4誌で美しさやバリエーションを競い合う昭和50年代の「ふろくの花園」は、これまでのように世の中の流行や少女たちの好きなもの、いわゆる世間の“人気者”をそのまま各誌で共有するのではなく、それをベースにして各誌オリジナルの“人気者”を次々と生み出していきます。
その先の時代へとつながる、雑誌生まれの「キャラクターグッズ」の花園はどのように造られていったのでしょうか。
少女漫画ふろくのキャラクターグッズ化をまず大きく後押ししたのは、サンリオをはじめとする市販のキャラクターグッズの大流行です。
昭和46年に東京・新宿に直営店「ギフトゲート」第1号店をオープンさせたサンリオは、昭和49年に「ハローキティ」「パティ&ジミー」、翌50年に「リトルツインスターズ(キキとララ)」「マイメロディ」など、現在でもおなじみのオリジナルキャラクターとそれらのイラストが描かれた商品を続々と世に送り出しました。
サンリオのほかには昭和53年ごろから、『学習・科学』でおなじみの学研が、ビクトリアファンシーシリーズとして「タイニーキャンディ(帽子をかぶった女の子)」「スリービッグリーズ(カバ・ゾウ・サイのトリオ)」、ソニークリエイティブプロダクツが「タマ&フレンズ(三丁目のタマ)」「バイキンくん」などのキャラクターグッズを発売しています。
これらのキャラクターはただの“動物や女の子のかわいいイラスト”であるだけでなく、名前、性格、家族構成、住んでる場所、好きな食べ物、誕生日などの設定や背景があらかじめきちんと作られていて、キャラクターごとにストーリーを持っていたことが、これまでのファンシーイラストから進化した新たな魅力でした。
ただの「登場人物」であるだけでなく、「性格、人格、その人の持ち味」という意味も持つ「キャラクター」という言葉どおりの存在なのです。
思い返せば、サンリオグッズを持つ前は、筆箱や水筒に描かれた女の子のイラストに自分で「○○ちゃん」と勝手に名前をつけたり、「亜土ちゃんグッズ」などイラストを描いていた人のほうが印象に残っていたような気がします。
学校や習いごとに持っていけるいろいろな文房具、おうちでつかう身の回りの生活用品など、これまでとは種類も数も格段に増えたグッズを買うために、少女たちは少ないおこづかいを子どもながらにやりくりして、近所のショップに足を運んでいたのです。そんな少女たちの楽しみはお店にならんだグッズだけではなく、プレゼントを買うと袋に貼りつけてもらえるオマケや、買った金額に応じてメンバーズカードに押してもらえるスタンプを集めることにもありました。
オマケ欲しさに自分のものを買ったときでも「プレゼントにしてください」と言ったり、友だちがまだ行ったことのないショップのメンバーズカードを持っていることがちょっぴり自慢だったりと、グッズショップはもはや生活の一部となり、少女たちにとっての“駄菓子屋”だったのです。
世の中の流行、少女たちの好きなもの、欲しいものを詰め込んできた少女(漫画)雑誌ふろくが、この一大ムーブメントを見逃すはずはありません。
これまでなら市販のキャラクターをそのまま各誌で共有していたかもしれないのですが、昭和50年代を迎え、少女漫画はもう十分世間に認知されており、各誌に作家も揃っています。
市販の人気キャラクターグッズのテイストを取り入れた、それぞれの雑誌生まれのいわゆる「マスコットキャラクター」が描かれたふろくが登場しはじめたのです。
「マスコット」という言葉には「幸運をもたらすお守りとして身近に置いて大切にする物。多くは人形や小動物。また、企業やイベントなどのシンボルとなるキャラクター」という意味があり、「マスコットキャラクター」はその雑誌を代表する存在ともいえるでしょう。
昭和50年代初めの各誌のマスコットキャラクターは
りぼん:キノコキノコ(キノコの姿をした妖精(?)・昭和47年12月号から連載開始)
ちゃお:フリップ&フラップ(犬のような小動物)、ファニー&フレッド(男の子と女の子)
ひとみ:ひとみのトミーくん(男の子)
などがあげられます。
ただの“かわいいイラスト”だけではない、設定・物語のあるキャラクターのふろくは、漫画と組み合わせてアピールしやすいのですが、少女漫画の繊細な絵柄をそのまま小物ふろくのイラストにすると、細かすぎてつぶれてしまうことがあります。そのため、ふろくによっては頭身を大きくするなどイラストを簡略化して、シンプルでかわいいキャラクターグッズのスタイルに近づけています。
シンプルでかわいいキャラクターのイラストは小物が多い少女漫画のふろくにピッタリのため、デフォルメが許される4コマやショート、ギャグ・コメディ枠で、動物が主人公の漫画が連載されたり、繊細な絵柄のストーリー漫画でも、主人公のペットやお目付役として動物のようなかわいいキャラクターがしばしば登場することを考えると、もしかしたら、ふろくのための連載、ふろくのためのキャラクターというものもあるのかもしれないですね。
そして、雑誌生まれのマスコットキャラクターといえば、『なかよし』の「わんころべえ」を忘れてはいけません。
昭和51年1月号から連載開始となった「わんころべえ」は、なんと40年近くたった現在でも『なかよし』の4コマ枠をしっかりと確保しています。連載開始当初のふろくを見ると、サンリオグッズのテイストを取り入れて雑誌独自のものを作り出そうとしていることが感じとれます。
まさに『なかよし』だけではなく、少女漫画雑誌を象徴する「ザ・マスコットキャラクター」なのです。
雑誌生まれのマスコットキャラクターは、少女たちの間に流行ったものに自分たちの雑誌のテイストを加えて発信することで、昭和50年代の各誌の個性を形成するもののひとつとなりました。本格的なストーリー漫画だけではなく、これらのキャラクターが主人公の4コマ漫画などを掲載することで、雑誌の内容を幅広くすると同時に、ふろくにとってもかわいらしさ・キャラクター性を強調できるという役割も持ち合わせています。
マスコットキャラクターの登場は、雑誌生まれの本格的なキャラクターグッズ時代の幕開けであり、シンプルなかわいらしさでまず年少読者をひきつけることができるそのふろくは、現在でも雑誌における重要な戦力となっているのです。
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