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2015年6月10日 (水)

ふろくの花園 17.新規参入-『ひとみ』の場合(後)

 初代の休刊から17年の時を経た昭和53年、少女たちのもとに『ひとみ』が再び戻ってきました。創刊当初の作家はあしべゆうほ先生、細川知栄子先生、イケスミチエコ先生、しらいしあい先生、せがわ真子先生、星合操先生ほか。掲載された漫画の中では、フィギュアスケートを題材にした「虹色のトレース(田中雅子先生・昭和53年9月号~)」が印象に残っています。スケート初心者の主人公が選手としてステップアップしていく過程を、競技ルールや技の説明とともにわかりやすく描いており、小学生だった私はこの漫画がきっかけで、フィギュアスケートのファンになりました。


 創刊号となる、昭和53年4月号のふろくは以下の9点。

 ・せがわ真子のファンシーバッグ
 ・アーリーアメリカンレターセット
 ・プチラック
 ・ペアブックマーク
 ・ひとみオリジナル時間わり
 ・わたしのボディーメモ
 ・ひとみプリティープレート
 ・ラブリィーアドレスカード
 ・チーコのチャーミングシール

 『りぼん』『なかよし』『ちゃお』同様、文房具などの実用小物数点をベースとしていました。しかし、まだなじみの薄い新雑誌を少女たちの目に留めさせるため、創刊当初の『ひとみ』のふろくには、他誌では見られなかった独自のアイディアが盛り込まれていたのです。

 まずは、少女たちが大好きな星占いコーナー。他誌では見開き2ページが主であったこのコーナーを、昭和54年9月号から約5年もの間、別冊ふろく「星占いハンド・ブック」として独立させることに。毎月の運勢に、「BF星座別アタック法」「星座別母親操縦法」「星占い式シェイプアップ法」「星占いで見る世界の大異変」「マイ・フレンドのつくりかた」「新学期実力アップの勉強法」などの月替わり特集ほか、B6サイズ・30ページ前後のボリューム満点&本格的な内容です。これを手に取った少女たちからの反響も大きく、「学校でも大人気だよ!」「あたってる!」「ひとみの星占いってすごい!」といった絶賛の手紙が毎号のように寄せられていました。

 ふろくのノートやファイルの裏表紙、紙袋の底などには、“りぼん○月号ふろく”“なかよし○月号ふろく”といった表記が、割と目に付く色や大きさで印刷されていることがあります。雑誌の付録には、「雑誌名と月号を記載し、その雑誌の付録であることを明示する」という決まりごとがあるからなのですが、「かわいいから学校で使いたいんだけど、これだとふろくってわかっちゃうからちょっとイヤだな……」と、頭を悩ます少女も。そこで、『ひとみ』のふろくは“Presented by HITOMI ~”という英文表記を付け、本来の“ひとみ○月号ふろく”の表記を省くか、ごく小さな文字で目立たぬ場所に置くことで、ふろくであることをバレにくくしました。“○月号ふろく”の部分をテープやマジックで隠したりしなくても、これなら気軽に学校に持って行けそうですね。また、「横文字で何か書いてあって、大人が持ってるモノみたいでカッコいい!」と、ちょっぴりおませな少女たちの心をくすぐって、『ひとみ』のふろくを好きになってもらおうという狙いもあったようです。

 横文字を使用して、大人っぽさやカッコよさを印象付けるという点では、ローマ字をまだ習ったばかりの小学生にとって、あまりなじみのない英単語をふろくの名前に多用したこともアイディアの一つです。「ラブリー・ファイル」「プリティ・バッグ」「ファンシー・ブックカバー」「メルヘン・ラック」など、カタカナ語として一般的なものが他誌ではよく使われています。しかし『ひとみ』はあえて、「ワンタッチシール・ディスペンサー(昭和53年6月号)※ワンタッチで取り出せるシールBOX」「ハイセンス・ライティング・シート(昭和53年8月号)※下じき」「ロンギング(longing=あこがれ)・バッグ(昭和53年10月号)」「インレイド(inlaid=はめ込んだ)・メモ・ボード&メモ・ピクチャー(昭和54年10月号)※メモ・ピクチャーをメモ・ボードに差し込んで飾る」などの、意味のわかりにくいものも使用。それは、「『ひとみ』のふろくは、他の雑誌よりも“カッコよくて、オシャレで、オトナっぽい”特別なグッズなんだよ」という少女たちへのメッセージでもありました。

 これらのふろくは色使いもシックで落ち着いていたこともあり、実用性だけでなく、子供っぽいちゃちなモノをつい敬遠してしまう少女の気持ちを汲み取った、“本格的で、オトナっぽい、ファッショナブルなもの”を追求していたようです。そう考えると、冒頭に述べたフィギュアスケートの漫画も、キレイな衣装を着て技の美しさを競い合うファッショナブルな競技を、本格的なスポーツロマンとして描くという、“ファッション性・本格志向”を体現した一つの例だったのでしょう。『りぼん』の持つおとめちっくなお姉さんぽさとはまた一味ちがう、個性的でカッコいいオトナっぽさと、見ている人は少ないけれど見た人はハマってしまう面白さを持っていたということで、当時の『ひとみ』は深夜に放送されるスタイリッシュなドラマを思わせます。

 「星占いハンド・ブック」や難しい横文字の名前をつけたふろくがなくなった後も、“独自のアイディア・ファッション性”を大切にしてきた『ひとみ』とそのふろくなのですが、創刊から13年後の平成3年、二度目の別れがついにやってきてしまったのです。秋田書店は昭和の終わりごろから、『サスペリア(昭和61年)』『ミステリーボニータ(昭和62年)』といった少女漫画誌のほか、当時流行り始めていたレディースコミック誌を相次いで創刊させていました。『りぼん』『なかよし』が圧倒的な強さを誇る中、初代休刊の時と同じく、低学年の少女向けに特化し、わざわざ付録までつけた雑誌の必要性をもう感じなくなったからなのかもしれませんね。 

 最終号となる、平成3年8月号のふろくは以下の4点。

 ・ゆりのサマータイムレターセット
 ・やよいの夏休みレターセット
 ・ひとみサマーポストカードセット
 ・みほのいろいろサマーカード

 この号には、初代の最終号に見当たらなかった休刊のあいさつが載っていたため、「愛読者の少女たちに、今度はきちんとケジメをつけることができたんだ」と、少し救われた気持ちになりました。ただ、最終号の表紙をめくり、カラー口絵に次号ふろくのお知らせがなくなっているのを見て、なんともいえない寂しさを感じたことに変わりはありません。

 どちらの創刊も少女漫画雑誌の創刊ラッシュ期という似たような時期でした。少女漫画雑誌の世界が賑わいを見せるときに姿を現す『ひとみ』。はたして、三度目の登場はあるのでしょうか。

 方針を変えながらも生き残りの道を探った『ちゃお』と、当初の方針を持ち続けて身を引いた『ひとみ』。結果的に正反対の方向に進むことになりましたが、『りぼん』『なかよし』という伝統ある2誌と同じフィールドで競い合うために、いかに差別化を図るかということは共通の課題でした。まだ世間に十分に知れわたってない新しい雑誌を、少女たちにいかにして手にとってもらうか。そこで、人気作家・漫画に依存しなくても純粋にアイディアで勝負できるふろくは、まだ漫画のことがよくわからない少女たちにも、自分たちの雑誌や漫画の魅力をアピールできる絶好のツールになりえたのです。

 このように、新規参入2誌のふろくへの取り組みをみることで、今まで“ついていて当たり前”と思っていた少女漫画雑誌ふろくの役割・重要性が、少しだけでも感じ取れたような気がします。

 それでは、『りぼん』『なかよし』『ちゃお』『ひとみ』の4誌が咲き乱れる、昭和50年代以降の「ふろくの花園」へ、これからみなさまをご案内いたします。

〈参考文献〉
『別冊太陽 子どもの昭和史 少女マンガの世界2』平凡社 1991年
『雑誌新聞総かたろぐ(1979年版~2007年版)』メディア・リサーチ・センター 1979年~2007年

※2008年8月に書いたものを投稿しました

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